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『僕とデザイン 仲條正義』に、デザインに大事なことの全てが詰まっていた。
『僕とデザイン 仲條正義』が出る前からものすごく楽しみで、amazonでポチッと予約をしておいたのですが、届いたらなんと、2冊!
知らないうちに2冊買っていたというのは何かのお導きだと思い、美術大学1年生の娘に1冊プレゼントしました。以前から仲條さんのデザインが好きと言っていた娘ですが、この本は読むのかな?と思っていたのですが、昨日聞いたら「途中まで読んでるとこ」とのことで、嬉しかった。この本は、若いクリエイターにぜひ読んでほしいと思います。
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表紙を開くと、ホンマタカシさんが撮影した仲條さんの写真。いつの写真なんだろう?と見たら、2020年と書いてあったので、けっこう最近ですね。美味しそうにタバコを吸う仲條さん、良い写真だなぁ。
ぼくは本を読みながら大事なことが書いてあるページの下を三角に折り曲げるクセがあるのですが、この本に限っては更にその中でもより大事だと思うページに、(いつか大切な時に使おうと思って取っておいた)金色のポストイットを貼りました。
書籍タイトルばかりでなく、ロゴのデザインも同じだけど、なんとなくまとまったときというのは、向こうから「歌になったな」という感覚がやってくる。デザインが完成かどうかということではなくて、やっと「デザインの声が聞こえてきた、歌になった」みたいな感じというか。
デザインをする、ものを創るときにこういうイメージを持つということが素敵ということと、本当に大切だと思いました。ぼくはまだ「デザインの声」を聞いたことがないなあと、憧れもあります。
僕が手掛けたカレンダーを例に文字組の秘訣を説明しよう。僕は毎年、資生堂パーラーのカレンダーをデザインしている。基本的には数字だけだから、書体を工夫することで変化をもたせているのだけど、そのときに重要なのは、どんな書体であれ、行間だけは全部統一させること。行間を統一させるという工夫で、リズムを生み出すんだ。もしかしたら、厳密な意味ではリズムといえないかもしれないが、確実にハーモニーが生まれる。
先程は"デザイン"を「歌」と表現していましたが、ここでは"行間"を「リズム」「ハーモニー」と、やはり音楽的な表現をしています。"行間"を「行間」としか意識していなかった自分の想像力のなさに反省しながら、これからは「リズム」「ハーモニー」と感じることで、デザインがより楽しくなるんじゃないかと、嬉しくなりました。
仲條さんはいつも逆説。言葉もいつも面白い。彼は「人に教えると減る」とか言うもんね。あれもすごく逆説的で、ふつうの人は教えることも勉強だというのがセオリーでしょう。教えると自分でも気づいてなかったことが浮かび上がるから、生徒だけが学ぶのではなくて、先生も教えることが学びになって、それがいいみたいになっているでしょう。でも仲條さんは「教えると減る」と。面白いなあ。
これは歌人の穂村弘さんのインタビューからの抜粋ですが、以前、何かの雑誌のインタビューで読んだのか仲條さん本人から直接聞いたのか忘れたのですが、確かに「教えると減る」から講義したり授業したりするのが嫌いと言っていたのを覚えていて、自分が講義や授業をするたびにこの言葉を思い出します。自分の学びにもなっているんだけど、実際は自分が削り取られているのかも…と考えちゃってます。この「教えると減る」の本当の意味を、仲條さんに直接確認したかったなあ。
ぼくが仲條正義さんに初めて会ったのは日本大学芸術学部でグラフィックデザインの勉強をしていた4年生のときで、1歳年上の有名アートディレクターの青木克憲さんが当時仲條さんの事務所でアルバイトをしていた関係で紹介してもらって、仲條さんに作品を見てもらいに事務所に行きました。
ぼくは当時内定をもらっていた広告代理店にアルバイトに行っていたのですが、そこで学生であるぼくも某不動産会社の新聞15段のシリーズ広告の競合コンペに案を出させてもらって、なんとぼくの案に決まったのですが、その新聞広告の色校がちょうど出たときだったので、それも見てもらいました。グリーンの平面構成みたいなデザインだったのですが、仲條さんは「文字の選び方や文字組は良くないけど、この緑の平面構成みたいなやつの比率とかのバランスはいいんじゃないか」と、学生のぼくにも本気でアドバイスをくれて、そこで少しだけど褒められたことが自信になって、30年以上経った今でもそれがあったからやっていられるのかもなあと思っています。
その数年後に作品を見てもらったときには「グギは遅咲きだな。自分もそうだったから頑張れよ」というようなことを言われて、20代前半だったぼくは、あと何十年も世の中に認められないのか…とちょっとショックでした(笑)。
更に10年くらい経ったときに、漫画家の内田春菊さんから「仲條さんが、”グギは雑草だからな”って言っていたわよ」と伝えられて、”抜いても抜いても生えてくる強さ的な感じ”がして、仲條さんが良い意味で言ったのかはわかりませんが、なんだか嬉しかったですね。
ぼくがアートディレクターになって、仲條さんに直接褒められたことって覚えている限り1回です。確か2008年頃のTDC(東京タイポディレクターズクラブ)の展覧会の会場でお会いした時に「グギが出してたパナソニックの新聞広告よかったよ」と言ってくれてめちゃくちゃ嬉しかったのですが、パナソニックじゃなくて、SHARPだったんですけどね(笑)。
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この写真は、2017年の仲條さんの個展『仲條正義 IN&OUT,あるいは 飲&嘔吐』展のレセプションパーティーの時に、仲條さんとやはり大尊敬するアートディレクターの葛西薫さんと、学生の時からの友人のアートディレクターの青木克憲さんと撮ってもらったものですが、これを見ても仲條さんの佇まいってダンディーでカッコイイんですよね。素敵だなあ。
惜しくも昨年の10月26日に仲條正義さんは亡くなってしまいました。告別式にうかがったのですが、亡くなったということがリアルでなくて、遺影を見たら、本当にものすごく寂しくなりました。
いただいた香典返しは、仲條正義さんがデザインした『資生堂パーラー』の包装紙で包まれリボンで結ばれていて、この”素晴らしいデザイン”として仲條正義さんは生き続けるんだと実感しました。
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色味については、正直に言えば、バキッとした原色が好きだね。マゼンダが何パーセントにシアンが何パーセントだとかいった、微妙にバランスのとれた色味だと、力強さがないと思うから。原色を使うと、印刷会社が変わっても色の再現性が変わらないのも魅力だし、中間色というのは、原色のままよりも強くなることがない気がする。実際、僕がデザインした資生堂パーラーの袋やパッケージは、シアン100パーセントを使っているから。かそけき微妙な美しさというのは、多くの人に「いいよね」と思ってもらえても、その一瞬で通り過ぎてしまい、じつは世の中に広く長く伝わりにくいんじゃないか。
ぼくがこれからもデザインを続けていく上でこの文章は、とても強く心に刻まれました。
とにかく、ものすごくものすごく良い本なので、若い人にも、ぜひ読んでほしいです。