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She Hates December

君はグレタ・トゥーンベリについて「She Hates December」と語った。君は「彼女の中には狂気があり、それは無防備にも晒されていく」と続けて言った。俺は彼女が好きでも嫌いでもないが、彼女は環境問題へ訴えを続けているがそれでも何かイマイチ響かない。彼女にあるのは狂気じゃなくて空白なのではないか。そう君へ言った。
「世界中を回って抗議活動とかをするのは自由なのかな」夜、部屋でニュースを見ていた時の話。二人の会話。若い男女の会話。
君は朝早く起きてマンションのベランダへと飛び出した。朝の光が残虐に差し込んだ。彼女は鳥のように手を広げて弾かれるように飛んだ。
「何をしてるんだい?」
俺は君に頬をペチペチされて飛び起きた。ただの夢だよ、きっと。妙にリアルな夢だったけど、夢は夢だ。気づいたら11時も過ぎていた。彼女は少し早いけど、と言いパスタを茹でてくれた。ベランダの柵に小鳥がとまった。小鳥は翼を広げた。夢で見た彼女のように。妙に危うい雰囲気で不安を感じた。
パスタを食べ終えてスマートフォンを開いたらニュースで「グレタ・トゥーンベリが拘束」というニュースを見た。彼女には強さがあると同時に弱さもある。弱さというよりは脆さで、それは空白へと繋がる。胡散臭いという一言で片付けるようなネットアンチコメントもあるけれどその行動力は一目置かれる。
「壊したくない?壊したい?」
君はそう言った。もしかしたら君の中にも狂気があるんじゃないか。
玄関を開けたらどこからかやってきた猫がいた。君はその猫を撫でながら「自由ってのはさ、この猫とかの事を言うんじゃないのかな。」と言った。猫はニャーニャーと鳴いた。俺は猫アレルギーだった。
半年後、彼女は俺の部屋にはもう居なかった。朝起きる度に彼女がいなくなった空白にあの時の夢が入り込もうとする。ただの夢だけど、決して終わらぬ夢だ。今日は君の誕生日。君は12月が誕生日だったっけ。
「クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントを一緒にしないでよね、私の母親みたいに。」って言ってきた事があった。君にはプレゼントは渡せなかった。彼女は12月が嫌いだった。俺は空白を埋めるのに必死だ。