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シンデレラコンプレックス
第4話 『乙女が歌えば小鳥もさえずる』3
「あら、珍しいところで会うわね」
大学の最寄駅から少し離れた、とあるカフェだった。
ソイラテひとつで窓際カウンターに陣取り、セミナー仲間の羽場珠美と、大学に「戻るか」もう一杯注文して「粘るか」と相談している矢先のことだった。
「千佐…さん?」
(と、店長)
なぜふたりがここに…!?
なんとなく敵意を感じ、
「そちらも珍しい取り合わせで…」
立ち上がって丁寧に頭を下げた。
「わたしたちは別に珍しくないわよ。本社の帰り」
なぜか前のめりな千佐。
「わたしも。大学が近いので」
なんとなく店長の視線が気になる。
「大学? あなた、意外と賢かったのね」
鼻先で笑って隣に目を移し「あなたの後輩じゃない」といって久末天嶺を見遣った。
(え…)
同じ大学!?
「え~先輩なんですかぁ」
背後から珠美が食い気味にしゃしゃり出て来た。珠美は年上の男性に目がない。
「…珠美」
「だれよ、紹介しなさいよ」
小声で耳打ちする珠美に、
「あぁ。友だちのバイト先の、マネージャーと店長さん」
なぜかふたりを紹介する羽目になる。
「忙しそうだね、ユナちゃん」
そう言って微笑む店長に、
「別に」
なぜかつっけんどんにしてしまう。
「落ち着いたらまた顔出してやって」
それについては答えに詰まった。
ナナ江ちゃんを慮っての言葉が、なぜかチクリと胸を刺す。あなたの彼女に「出禁を食らった」とは言えない。
「おかしな話ね。ただのバイトに会いに来るように…なんて」
相変わらず、薔薇を模したようなセリフ。
「そう言えばあなた、乾家の縁者なんですってね。わたしも…」
「おい…」
(こんなところで、そんな話!?)
乾のことを言われては頭に血が上らないはずがない。
しかも、それを知っているのはナナ江ちゃんだけだ。店長が知ってしまうのは時間の問題として、なぜ会ったばかりの他人にそんなことを言われなければならないのか…そう思ったら、頭が真っ白になった。
パシ・・・・っ。
「ちょっ、ユナ!」
珠美に咎められ、自分の行動に驚いた。
「なにするの!」
そう言ったかと思うと、驚きの顔を隠せない天嶺によりそう千佐。
「あ…」
(やだ、あたし)
「授業があるんで」
下手な言い訳をし、荷物をかき集めた。
背中に千佐の金切り声が響いたが、なにを言っているのか雑音でしかなかった。
「ちょっと、待って。…ユナ!」
肩を掴まれ、我に返る。
「あぁ、ごめん。いたんだ」
「なによそれ。てかなに、今の」
目を丸くする珠美に「こっちが知りたい」と、自分の行動が信じられなかった。
「それにしてもあんたの周りって、イケメンばっかりね~」
(なにその顔)
好奇心丸出しの珠美に、
「イケメン? だれが」
「さっきのひとにしろ…。弟にしろ」
「あれが?」
立ち止まって振り返る。
「はぁ…羨ましい。あんたの審美眼どうなってんの」
すっかり呆れ顔。
イケメン? 店長が?
(確かに。嫌いな顔ではない…か)
そんなことよりも自分のしでかしたことに、ますますナナ江ちゃんのところに「行けなくなった」と、激しく後悔した。
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