シンデレラコンプレックス
第5話 『その我慢は乙女の意志ではない』5
いつの間にか春休みに入っていた。気づかずに図書館通いをしていたわたしは、なんだか季節に取り残された残雪のようなオーラを纏っている。
ナナ江ちゃんに会えないことで、こんなにも張り合いが無くなるとは。
『そもそも頼りすぎなんだよ』
歩多可のいうことにも一理ある。
(また7? おとぎ話にラッキー7はつきものなの?)
にしても、子どもが生まれるパターンは初めてだ。
「あたしが荒野だよ」
7年。7歳になった男女の双子を連れ、ラプンツェルは王子と共にお城に帰る。暗闇の中から一転、王子は跡継ぎまで授かり祖国凱旋。さぞかし喜ばれたことだろう。
自分にはそんな未来があるだろうか。
(なにを考えても落ち込むなぁ…)
昔に戻ったみたいだ。
「おまえ。ナナ江ちゃんから連絡入ってないか?」
バイトから戻った歩多可の開口一番だった。
「え?」
そういえばここ最近、携帯すら見ていない。
「規矩也が店に行ったらしいんだ」
「へぇ…お店気に入った?」
「じゃねーの? 休み入ってから会ってなかったから。ナナ江ちゃんに伝言頼まれたらしい」
「あぁ」
「電話してもさっぱり出ないし…」
「それで、そんなに息切らしてるの?」
積みあがった資料の中からスマートフォンを探す。
「音消してたわ…」
点滅している画面をスライドすると、メールや電話の履歴がたくさん…
(ナナ江ちゃんからも…)
「荷物、届いたってー」
「自分で行けよ」
「え~せめて一緒に行ってくれない? あ…」
「なんだよ」
「そりゃそうだよね」
店長を殴った件についてのメールが長々と明記されている。
「なに?」
顔をしかめて覗き込む歩多可に、
「あのマネージャー、乾の人間に知り合いがいるらしい」
(だからあの時…)
そういう言葉に繋がるのか…と、納得。
「じゃぁやっぱり、店長関係なかったんじゃん」
「そうみたい。…どうしよう」
「今さらだろ」
「そうだけど。…あ、」
「今度はなに!?」
「千佐さんて、店長の元カノらしい」
「あ~ね、やっぱり」
「やっぱり?」
「だから言ったろ?『女の闘い』だって」
「あぁ…」
そういう緊迫感かと納得する。
「やっぱり行った方がいいんじゃない?」
「う…ん。『来てほしい』って書いてる。荷物もあるし」
(でも…)
どの面下げて行けるだろうか。
「外で会おうかな」
「なんでよ」
「だって、あの女に会いたくないし、店長にだって…」
「その店長には謝罪が必要なんじゃねーの?」
う…。
「それをいわないでよ~」
「ずっとそうしてるわけにもいかないだろーが」
「そうだけど…」
カッコ悪すぎる。
(なんであんなこと…。別に大したことじゃなかったのに)
「気づかないのは、見ないフリをしているのと同じ…か」
そんな歩多可のつぶやきなど、耳に入るはずがなかった。
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