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シンデレラコンプレックス

第5話 『その我慢は乙女の意志ではない』5


いつの間にか春休みに入っていた。気づかずに図書館通いをしていたわたしは、なんだか季節に取り残された残雪のようなオーラを纏っている。
ナナ江ちゃんに会えないことで、こんなにも張り合いが無くなるとは。

『そもそも頼りすぎなんだよ』
歩多可ほたかのいうことにも一理ある。


7年間、王子は盲目のまま森の中を彷徨い、ラプンツェルが追放された荒野に辿り着き母となったラプンツェルと再会する。ラプンツェルの悦びの涙が王子の目に触れ、王子の目は回復する。

(また7? おとぎ話にラッキー7はつきものなの?)
にしても、子どもが生まれるパターンは初めてだ。

「あたしが荒野だよ」

7年。7歳になった男女の双子を連れ、ラプンツェルは王子と共にお城に帰る。暗闇の中から一転、王子は跡継ぎまで授かり祖国凱旋。さぞかし喜ばれたことだろう。

自分にはそんな未来があるだろうか。

(なにを考えても落ち込むなぁ…)
昔に戻ったみたいだ。


「おまえ。ナナ江ちゃんから連絡入ってないか?」
バイトから戻った歩多可の開口一番だった。

「え?」
そういえばここ最近、携帯すら見ていない。

規矩也きくやが店に行ったらしいんだ」
「へぇ…お店気に入った?」
「じゃねーの? 休み入ってから会ってなかったから。ナナ江ちゃんに伝言頼まれたらしい」
「あぁ」

「電話してもさっぱり出ないし…」
「それで、そんなに息切らしてるの?」

積みあがった資料の中からスマートフォンを探す。

「音消してたわ…」
点滅している画面をスライドすると、メールや電話の履歴がたくさん…
(ナナ江ちゃんからも…)

「荷物、届いたってー」
「自分で行けよ」
「え~せめて一緒に行ってくれない? あ…
「なんだよ」

「そりゃそうだよね」
店長を殴った件についてのメールが長々と明記されている。

「なに?」
顔をしかめて覗き込む歩多可に、

「あのマネージャー、乾の人間に知り合いがいるらしい」
(だからあの時…)

『そう言えばあなた、乾家の縁者なんですってね。わたしも…

そういう言葉に繋がるのか…と、納得。

「じゃぁやっぱり、店長関係なかったんじゃん」
「そうみたい。…どうしよう」
「今さらだろ」
「そうだけど。…あ、
「今度はなに!?」

「千佐さんて、店長の元カノらしい」
「あ~ね、やっぱり」
「やっぱり?」
「だから言ったろ?『女の闘い』だって」

「あぁ…」
そういう緊迫感かと納得する。

「やっぱり行った方がいいんじゃない?」
「う…ん。『来てほしい』って書いてる。荷物もあるし」

(でも…)
どの面下げて行けるだろうか。

「外で会おうかな」
「なんでよ」
「だって、あの女に会いたくないし、店長にだって…」
「その店長には謝罪が必要なんじゃねーの?」

う…。

「それをいわないでよ~」
「ずっとそうしてるわけにもいかないだろーが」

「そうだけど…」
カッコ悪すぎる。

(なんであんなこと…。別に大したことじゃなかったのに)


「気づかないのは、見ないフリをしているのと同じ…か」
そんな歩多可のつぶやきなど、耳に入るはずがなかった。



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