夫婦の実感
「あたしたちって、夫婦なのよね?」
パソコンの画面に夢中の彼の顔を覗き込こむ。
彼はきょとんとして、彼女を見返し、
「なに言ってんの?」とすぐにパソコンに目を落とした。
彼女は目線をそのままに、
「実感あるの?」と更に問いかける。
彼はパソコンの手を止め、
「あるよ」と彼女に目を移す。
「ふーん。どんな?」
いまさらながらな質問を投げかけておきながら、
バツが悪そうに視線をそらす彼女。
ダイニングチェアにもたれ、天井を仰ぐ。
「たとえば、こうして帰ってきて、夕飯ができてたりとか…?」
彼は素直に答える。
「でも、今までと変わらないじゃない。つきあってる頃だって、帰ってくるあなたにご飯食べさせてた」
間違っちゃいないが、
「そうじゃなくて」となにかほかの言葉を探している彼。
彼の腕を掴み、再び見据える。
「あたしには延長なの。あなたにはなにが夫婦の実感なの?」
言いながら、苗字が変わったことや、子供の顔が頭をよぎる。
結婚てなんだ? 夫婦って何だ? 奥さんてなんだ?
延長である今が、幸せの証だろうか?
結婚するのは、この人だと思ったから。ずっと一緒にいたいから。
もちろん彼は好き、でも…!?
「ご飯、ホンとにおいしいよ」
彼はどういってなだめたらいいのかわからない。
「ふーん。よかったね。あたしと結婚して幸せでしょ」
「うん」
「よかったね」
また、はぐらかされた。そう思うのはわがままか?
「あなたばっかり、理解してるみたいでずるいね」
「なんだよ、それ」
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