チューリップピンク2

連載『オスカルな女たち』

《 守秘義務 》・・・8

「誰なんです?」
こんな時の楓の目はらんらんと輝いている。〈木下楓〉は自分しか知らない真実(まこと)の弱点を握るのが大好きだ。そして、それを知らない真実ではない。
「いつもふたりだけで診察なんて…妬けちゃう」
(妬けちゃう…ってか)
こちらは気が重いだけの時間だというのに、「知らない」というのは実に怖いもの知らずで平和なものだ。

「誰だか教えたら、お願い聞いてくれるの?」
したたかに、楓の喜ぶ顔をする。
「そりゃ…。真実先生の頼みなら…」
上目遣いに応える楓。
「でもなぁ…」
「なんですか?」
「いや、」
「もう~。真実先生~」
 楓はまた、じらされるのもたまらなく好きだ。だが、
「いやですよ」
「そんなぁ…」
「ダメです!」
「頼むよぉ…」
どうやら今回は、彼女もただならぬものを感じているのか、泣き落としが利かないようだ。
(どうするかな…)

こうなれば「仕事だ」と言ってしまえばいいのだが、それはそれで仕事がやりづらくなることも承知していた。
「次はその特患さまですから、よろしくお願いしますね…!」
楓は憮然と冷たく言い放って診察室を出て行った。
「…はいはい」
(気が重いなぁ…)

いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです