連載『オスカルな女たち』
《 スパイス 》・・・16
前日に入手した〈素行調査書〉には、しっかりと綾香の不倫現場の写真が添付されていた。
さすがの玲(あきら)もひとりで見る勇気がなかったために、つかさの来店に合わせて書類を届けさせたのだが、相手は「水本(旦那)ではないのか」とのつかさの言及に不安がないわけではなかった。そんなことはあり得ないと頭では解っていても、実際綾香の相手が自分の夫であったのならどうしようか…とも考えないわけではなかった。
反面、そんなことに「どうしよう」と考えている自分自身にも玲は驚いていた。「どうしよう」と考える自分は、当たり前になっている自分の心を試すいい機会でもあった。未だ夫を愛しているのか、それともただの独占欲の延長か。
『自分が夫に愛されているってことはありありと解るの…』
とは、昨日つかさと出掛けた先での玲のセリフだった。
『でも自分は、主人ほどアピールしているとは言えないわ』
と、これもまた本音だ。
愛情表現はいくらか歪んでいるとはいえ、自分(玲)をつなぎ留めておくためにと結婚記念日に〈赤い部屋〉をプレゼントしてくれたり、頼んでもいないのに鞭やボンデージを玲好みの特注で作ってくれたり、もちろん家のことも子どものことも夫の泰英(やすひで)はよくやってくれている。
だがそれに対し玲は、ただ礼を言うだけだった。
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