シンデレラコンプレックス
第6話 『乙女の心は花と生まれる』4
「スタートラインは皆同じ」とはいえ、生まれた日も違えばその容姿体型も違うわけで、実質同じとするには無理がある。生まれる状況も違えば環境もまた然り。それが個性というものだ。
人生がスタートしたのちも、本人のやる気が伴わなければ成長は望めないだろうし、もともと持っているセンスというのも関わってくるだろう。
「おやゆび姫って、わらしべ長者みたい」
結局はうまいこと、王子さまに会えるよう流されている。
生まれる場所が違えば、悲運に出会うこともなかったのだろうか。
攫われたり、ひもじい思いをしたり、無理を強いられなければ、しあわせへの道は拓けないのか。
お姫様に冒険はつきもの?
「おい」
呆けている間に、部屋が明るくなり、空腹を思い出させる夕飯のいい香りがしてきた。
「なんだか気が抜けちゃったよ」
目の前に並べられた鶏むねの生姜焼きの彩の良さを眺めながら、ようやっと現実が戻ってきた。
「これ」
店から戻って、品物をテーブルの上に置いたまましばらくぼーっとしていた。
どれくらいぼーっとしていたのかというと、歩多可が帰宅し、シャワーを済ませて夕飯を作るくらいの時間が過ぎていた。
「ちゃんと自分で取ってきたんだ」
丁寧に包装された包みを解く。
「この歳でお揃いもないけど」
「いや、いいよ。それより食べないの? バイトだろ」
「あぁ。うん。なんだか、」
「食欲ない?」
「そんなことない」
そういって立ち上がり、洗面所に行って手を洗った。
「ちゃんと謝ったの?」
「謝った。…っていうか、逆に頭を下げられちゃった」
「だれに?」
「店長」
「ナナ江ちゃんは?」
「それが、なんだかよく解らなくて」
「へぇ…」
謝罪のあと店長は、自分の身の上を話してくれた。
『オレの家は、キミほどじゃないけれど、地元では名の知れた呉服問屋でね。4人兄弟なんだが、母親と呼んだ相手は3人いる』
『え…それは、また衝撃。あ…』
『いいんだ。オレは母の連れ子で、すぐ下の弟はおそらく父と母の子だ。だが妹は、母が外で作った子どもで、その母親が家を出された後は、店の従業員だった女性を母と呼んでいた。末弟は後妻の子。なかなか複雑だろ?』
『ぇ、あぁ。は…い』
『だからかな。なんとなく他人事じゃない気がして。君には迷惑な話だろうけど』
『そんな…』
反応に困る話ではあったが、こちらの事情だけを知っていることに申し訳なさを感じてのことだろう。世の中にはいろんな人がいるものだ。