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連載『あの頃を思い出す』

  1. 『ま』の悪い恋人たち・・・8


「どうしていいかわかんないんだ」
「瀬谷くんに悪い?」
 しかし、尚季(ひさき)の胸中とは裏腹に、朋李(ともり)の脳は暴走する。
「そんな。そう言うことじゃなくて、とにかく瀬谷くんは関係ない」
「そうよね、この先結婚しないわけじゃないだろうし」
 尚季の言葉など耳に入れず、己の勝手な憶測のまま会話を進める。
「結婚なんてしない。そういうことじゃないんだって」
 強く言い放つ。考えがまとまらないだけに、今の複雑な状況と混同されるのは仕方のないことだが、どちらもあらされたくない心の中の問題だ。
「いいんじゃない、お墓参りなんて。形だけだし、気持ちがあれば…」
 暗い顔を見せる尚季に、一つ一つ言葉を選ぶようにして話す朋李。
「キモチ、ね。それだけじゃ、足りない気がする。だから、あたしのしてることって失礼なことなのかなって」
 お墓参りなんて、なんの意味もないのかもしれない。それこそこれは自己満足、なにかへの言い訳か、あるいは懺悔…思いは尽きない。
「そう言うのに失礼とかってあるの? 罰当たりなことしてるとか…あ」
 瀬谷くんか、といいかけて口を閉じる。
「さぁね。…それよりトモちゃん、お墓参りで思い出した。あたし、この前経場(けいば)くんにあっちゃった」
 浮かれた声で身を乗り出す。話を反らすにはいい話題だ。
「うそ。いつ」
 思わず尚季の腕を掴む。朋李の目はもう好奇心でいっぱいだ。
「お墓参りの日。保育園に行く途中の信号機のとこ。相変わらずすごい車乗ってたわ」
 どこともつかず天井を仰ぐ尚季。数日前のあの光景を思い出しているのか、どこか懐かしむような顔を見せる。
「なによ、未練?」
「そんなんじゃないって」
「経場くんか…。いい男だったことは覚えてる…けどあたし、顔忘れちゃった。だけどいいよね昔の彼って、害がなくてさ」
 顔を忘れた…といわれ、果たしてあれが経場本人だったのかと思い返す尚季。
「別に会いたくて会ったわけじゃない。あんまりいい別れかたしなかったし。でも、どきどきしちゃったのは事実だけど」
 理由はどうあれ不意の再会には誰しもそうだろう。ましてや昔の男となれば、当然だ。
「そうそれ、ときめきよ」
 浮かれた調子で指を指す。
「そう、ときめき!…あ」
 真似して差し出された指先は、朋李の頭上を横切った。

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