恋愛体質:entrance
『 街コン 』
1.prologue
「街コン!?…っとぉ」
ベッドから起き上がった拍子にスマートフォンを落としそうになり、慌てて右手を添え、
「ムリムリムリムリ…」
電話越しで相手に姿が見えていないにもかかわらず、あまりに突飛な言葉にその手を顔の前で激しく振る。
『いうと思ったぁ。だからさ、とりあえずあたしたちふたりで行ってみることにしたのよ』
くすくす…と笑い声が混じる、
「ふたり? 雅水と?」
受話器の向こうのふたりにはすでに決定事項のようだった。
『そうそう。出会いのない仕事してるあたしたちはねー、自分でチャンスを切り開いていかないと』
『ね~』
声をそろえて相槌を打つ電話口の小柴砂羽は看護師で、一緒にいる古河雅水は小学校教諭だ。
「あたしたち…?」
それは自分も含まれるのか…と、止めても聞かないであろうふたりに「やれやれ…」とスマートフォンの画面を見据える。
「うそでしょ」
だれにともなく投げかけ、ひとつため息をついたあと、
「そういうのって危険はないの?」
訝し気に畳みかける桃子は、雑貨店勤務のためもちろん男性との出会いは少ない。ただ、そんなものだと受け止めている。
『大丈夫よ~その辺は任せて! ちゃんとしたところチョイスしたから』
「チョイス? もう申し込んだってこと?」
『あたしたち、仕事早いから~』
「ちょっと、砂羽!」
『大丈夫だって。ちゃんとしたイベント会社の企画だし。まぁ高学歴コンパは気が引けちゃうし、結婚目的のやつは気に入られるとあとあと面倒そうだから、お友だち探しってところでね』
あとあと面倒…とは、ずいぶんとうぬぼれた言葉だ。
「そういうことじゃなくて」
そんな姿勢がいちばん危ういのではないかと疑うも、電話の向こうのふたりはそんなことを気にする様子はない。
『もう。トーコは心配性なんだから。つまらなかったらすぐ退散するし』
「退散って…」
『しっかり者のまさみちゃんがついてるんだから。あ、週末空けといてよね、結果はその時に~』
『じゃ~ね~』
「え、ちょっ雅水? 砂羽!」
プッ…
「切れた」
一抹の不安を覚えながらも、新しいことや時代に沿った公共空間に躊躇なく飛び込めるふたりを、羨ましいとも思う桃子だった。