恋愛体質:date
『雅水と唯十』
5.at last
「あのあと、だれかと連絡とった?」
LINEと言えば、と口火を切った割に歯切れの悪い砂羽のもの言いたげな様子に、
「あぁもしかして、寺井さんのこと言ってる?」
気まずさの理由を察する雅水は、いつ話したものかとタイミングを計っていたようだった。
「あぁそう、寺井さん」
苦笑いを返してしまうのは、珍しくストレートに突っ込めない砂羽の形容しがたいうしろめたさのようなものからだった。
寺井は街コンで元ホストの上石と一緒に参加していた。見た目は地味だが次期社長というバックグラウンドの持ち主。悪い人ではないのだが、いかんせんじれったい。
実際、年下の現役大学生からのLINEの合間に寺井とのやり取りがまったくなかったというわけではない。だが、あまりの内容のなさに雅水自身、話すほどのことなのかとループしていたのは事実。
しかしながら隠すことでもなく、
「たまに連絡くるよ。でも『会いたい』っていうまでが長くてさ。だからってその気もないのにこっちからは誘えないじゃん。だから微妙」
恋愛に時間を掛けたい学生時代ならまだしも、今さらちまちまと相手をする時間は今の雅水には「無駄」でしかないのだ。
「微妙ね、なんとなくわかる気がする」
「その気はないんだ、ね」
なんとなく解っていたことではあるが、寺井の事情を聞かされている桃子にしてもそこは気になるところではあった。
「ん~。なんていうか、ピンとこない感じ?」
それはまったく眼中にない、ともいえる。
「でも彼、韓流っぽい顔ではあるよね」
なんのフォローか、それもなんとなくの砂羽の意見。
「あぁ。言われてみれば? でもさ、違うよね。解るよね?」
同じ推しを追いかけている砂羽にはそれだけで充分すぎた。
「それも微妙だよね」
「ようやっと『会いたい』って言葉が出て来たと思ったらさ、上石くんのいるBARに誘うんだもん。それはちょっと違うよね」
「そうね、それじゃぁいつもと変わりない」
なにげなくやり過ごしたが、
「って、雅水、彼のBARにいったことあるの?」
「あ」
「あ?」
「別に上石くんに会いに行ったわけじゃないよ。あのぼくっ子がさ~」
「ぼくっこ?」
「そうだ、ぼくっ子唯十! あいつの実家、うちの学校の近所らしくてさ。近所どころか卒業生らしくて先週末学校に来たのよ」
「なにしに!?」
「通りかかったんだってさ」
「へぇ」
そんな偶然もあるのかと、またまた雅水の引きの強さに笑った。
「へぇ、だよね。放課後、担任の子の鉄棒の練習してたらさ、金網越しに弥次飛ばしてきやがって」
「声かけて来たの? あ~かけるか、あの子は」
BBQの時には随分と敵意丸出しだったように思えた彼だが、そこを覗けば人懐こいタイプではあった。
「暇なんだか下校時間までいたもんだから、その流れで飲みに行ったの。奢るっていうし。そしたら行った先で上石くんがバーテンダーしてたってわけ」
「へぇ」
この場で出てくる要素もない名前に、砂羽はどんな顔をしていいのか解らないといった様子で答えた。
「いつも一緒なんだね。ふたり」
なにげない桃子の言葉に、
「そう考えたらそうね。とんだ腰ぎんちゃくだわ」
いい迷惑、という雅水。
「なにせ浸水してんだもんね、ユーヤさんに」
いつもの調子で答えてみせる砂羽だが「それでどうした」というところまでは追及できなかった。
「なかなか決まってたよ、彼。バイトだって言ってたけど、自分の店のようだった」
「へぇ」