連載『あの頃を思い出す』
10. あの頃を思い出す・・・2
「もう、そういうところよね」
「なにが」
「情けない顔。哉士(さいし)なら謝らない。お人好しもいいとこ、だからあなたを選ばなかった」
反省するどころか、遠慮がちな瀬谷の態度を叱責する深雪(みゆき)。
「あなたにはがっかり…」
「それはこっちのセリフだ。なんであの時言わなかった!」
「あの時言ってたらなんだっていうのよ!」
深雪は嘲笑し、
「まさか、わたしと結婚したかったとでも? 知ってるわよ、あなたわたしが好きだったんでしょう?」
それは、興奮して掴みかかろうとする瀬谷に冷や水を掛けるような言葉だった。
「仮に言ったところで中学生だったあなたと結婚できたとでも思うわけ、バカじゃないの」
「なんだと…!」
「憧れの女を抱けただけでもありがたいと思いなさい」
「あんたって人は…」
握りこぶしを固め、震える瀬谷。
「こういうの、今の言葉でいうウィンウィンってやつじゃないの?」
あくまでもお互いにメリットがあると言ってのける。
「なに言って…」
「あなたは好きな女を抱けたわけだし、結果的にわたしは哉士を縛ることができた。それだけで充分よ」
「充分? 好かれてもいない男をモノにするのが?」
興奮気味に語気を荒げる瀬谷に、
「言うじゃない。でも…だからなに。わたしは欲しいものはどんなことをしても手に入れる」
冷ややかに返す深雪。
「そんなことに俺を、利用したのか…」
「だから、あなただっていい思いしたじゃない?」
バカにしたように微笑んで見せる。
「ねぇ。本当に知らなかったの? それとも知らないふり?」
訝しんでみる深雪の目は、それまで見たこともない冷たい目をしていた。
「なにがほんとで、どうやってこうなったのか…」
知りたいのだ…と、瀬谷は訴える。
「その顔だと、本当に知らなかったのね」
可笑しい…と言って深雪は高笑いして見せた。
瀬谷はなにも言えずに震える自分の感情を拳に込めた。
「く…っ」
「知りたい? あの時なにがあったのか」
そんな状態の瀬谷に呆れながら、腕を組んで見据える深雪。
「それとも、知らないふりを通した方が…」
「いや。教えてくれ、たとえ『今さら』だとしても」
「そう。じゃぁ教えてあげる。『今さら』だけどね」
そう言って深雪は当時の真相を語りだした。