連載『あの頃を思い出す』
3. いくつかの片想い・・・7
「別にいいじゃない」
「でもやっぱり、おかしいじゃないですか。あんまり結婚結婚騒ぐのも。だからって『妊娠したから結婚して』とも言えないし。仕組んだみたいで…」
留守電に「妊娠した」と伝言を残した者の言葉とは思えない。
「そんなことないよ。実際仕組んだわけじゃないし。仕組んでたらこんなに悩んでないでしょう」
ありさの健気な心を覗き込む。少しばかり潤んだ目許がきらきらとゆれた。
「言ってみたら? 将来を考えてるって」
「できません、そんなの。あ、て言うか、告白と同じじゃないですか」
ぽんと縁石を小さく飛び、歩道を歩き出す。
「そうだよねぇ。普通は言えないよねぇ」
「でも笹倉さんは自分で言ったんですよね? 旦那さんに。なんて言ったんですか?」
もうすっかり明るい顔つきで振り返る。
「あーもしかしてあたし、墓穴掘った?」
「聞きたい、聞きたい、ものっすごく!」
後ろ向きで歩きながら、もう既に野次馬モード。
「あーあたしのは、あんまり参考にならないから」
「いいじゃないですか」
すばやく尚季(ひさき)の手を取り、急かす様に引っ張る。尚季のアパートは目の前だ。
「またちびちゃん待ってるかな」
「さぁどうだろ」
言いながら尚季は、なにやら嫌な予感を覚えた。
「あれ? やっぱり誰かいる」
「え?」
立ち止まるありさの肩越しに覗き込む。
「あ…」
「あの人…図書館によく来る人ですよね、今日はいなかったけど。あれぇ?」
疑わしい目で尚季を見遣る。
運悪く、買い物袋をぶら下げた瀬谷と鉢合わせしてしまったのだ。
「一緒に住んでる…わけじゃないですよね」
勘の言いありさはすぐにも状況を飲み込んだようだ。
「そんなわけ、ないけど」
立ち止まるのも不自然で、ついにはアパートの階下に辿り着く。
「ワルイ。びっくりさせようと思って」
バツが悪そうに買い物袋を後ろ手に持ち替える瀬谷。
「気にしないで」
言いながら一番気にしているのは尚季自身だ。
「いやァホント、びっくりだわ」
気まずくやり取りするふたりを交互に見返し、遠慮なくしたり顔のありさ。
「あーほんと、びっくり」
それを確認し「やっぱり」と思う尚季だった。
いつまでも知らん顔はできないし、黙っているのも困難になっていた尚季は、反面救われたと思うのだった。ただ気持ちがしっかり固まっていれば、の話だ。
だからと言って付き合っているわけでもない瀬谷をどう紹介していいものか判断つかない。
「あの、ありさちゃん」
「解ってます。ないしょですね」
そのままふたりを帰すわけにも行かないので、とりあえず3人で部屋へと向かった。
双子を引き取りに行く際、まんまと朋李(ともり)に「バーか」と口パクでなじられた事で更に追い討ちを食らう尚季。「救われた」と思ったのは束の間で、実際どうするつもりだったのか、つまづく思いが湧き上がる。