恋愛体質:BBQ
『唯十と友也』
5.motive
シャカシャカシャカ…と慣れた手つきでシェーカーを振り、優雅にグラスに注いでいく。そんな友也の凛とした姿に陶酔し、頬杖をついている唯十は、この時間がいちばん「好きだ」と思う。
「バイトなんかする必要ないのに。でもユウヤさんのカクテルは好き」
満足げな顔で見上げると、虫の居所が悪そうな表情に視線を逸らす。
「これはオレの趣味」
仕事中は「話し掛けるな」モード全開の友也は、視線を落としたままつぶやく。
「そ、れ、で?」
カウンターにひとがいなくなったタイミングで手をつき、カクテルグラスのふちを指先でなぞる唯十に畳みかける友也。
「なにが?」
目の前の平穏なひとコマに酔いしれていた唯十は、無粋なひとことで現実に引き戻された。
「感想は?」
「感想って」
思いがけない言葉に、グラスを持つ手がかすかにふるえた。
それは目の前に注がれた飲み物のことか…と一瞬考えたが、そうでないことは友也の含んだ表情から想像できた。
「べつに」
そう言ったところで恐らく、友也にはこちらの意図が見て取れるのだろうと観念して次の言葉を待つ。
「BBQが目的だったわけじゃないだろ」
図星を突いたその言葉に、数日前の醜態が蘇る。
「ユウヤさん、なに考えてるの?」
「なにがって?」
「最初はタカさんの為だって言ってたのに、ユウヤさんの方が、なんだか楽しそうだった」
唇を尖らせ、拗ねた目で訴える。
「楽しんじゃだめか?」
「ダメ…じゃ、ないけど。なんかヤダ」
「言ったろ。もうお遊びは終わりにするって」
「そうだけど。別にすぐ女と付き合わなくたっていいじゃん」
「いつまでもフラフラしてるわけにいかないだろ。おまえだってそのつもりで仕事辞めたんだろ?」
「それは…! そうだけど」
(ユウヤさんと一緒にいたいだけだ)
そう言ったら、立場は変わるだろうか。
「オレ、子ども欲しいんだ。出来るか解んねーけど」
「子ども?」
「らしくねぇか?」
「そんなことないけど」
子ども好きなことは知っている。
「それはわかるけど。別に女相手にしなくたって、養子でも取ればいいじゃない」
「まぁそういう手段もあるけど。せっかくなら」
「結婚したいってこと? 似合わないよ」
「まぁな。そうかもな」
「だったら」
一度言葉を飲み込み、ついでにカクテルを一気に喉に流し込む。
「へぇ、ユウヤさん。結婚願望なんかあったんだ」
「あったんだなー。オレもびっくり」
「他人ごとみたいに」
「だったら、一度でいいから僕を抱いてよ」
怒りともとれる強い眼差しを友也に向ける。
「それは、できないっていったろ」
「どうしてっ!できないことないじゃない」
もう何度このやり取りをしただろうか。ムダだと解っていても、繰り返してしまう。
「困らせるなよ」
「僕、本気だよ」
「…解ってるよ」
そういうと、友也は真摯に見つめ返し、
「だからこそ、もう遊びは終わりにするって言ったんだ」
「納得できない。僕と寝てからだっていいじゃない」
「ユート」
特別強い口調でもない語気にビクついてしまうのは、それ以上の戯言はふたりの関係を切り崩しかねないことを知っているからだ。
「そんな目で見ないでよ」
(そんな、やさしい目。その目が僕を見ないなら…!)
「いっそ傷つけてくれたらいいのに」
うるんだ瞳で答える。
「ユート」
(困ってるよね。でもいつも『やめろ』とは言わない)
「そんなの、やさしさじゃない」
「そうかもしれない。だからオレなんか、見限ってくれていい」
「やだよ。どこまでだってつきまとってやるから」
「おてやわらかに」
4.conviction 1.beginning