ケーキ

連載『オスカルな女たち』

《 治りにくい傷 》・・・14

「次の舞台はコメディーだから、ちょっと楽しみなんだよねぇ」
「へぇ…どんな役なの?」
 料理の乗ったテーブルを大きく囲むように、賑やかなホールの端に席を設けたふたりの話題は、大成功に終わった舞台の成功と、次に予定されている芝居の話で盛り上がった。
「自分は人間だと思ってる犬の役」
「犬?」
「うん。セリフは『ワン』だけ。でもその一言でいろいろ使い分けなきゃならない」
「大変だ」
「でも、やりがいは感じる。…絶対見に来てね」
「当然!」
「おりりん。やっぱり、ちょっと食が細くなったんじゃない?」
 チーズフォンデュのソースを余すことなくこそげ取ろうと苦戦しながら、自分より明らかにペースの遅い織瀬(おりせ)を気遣う。
「そうかな? もえもえの食欲がありすぎるからじゃないの」
「そうかな? 舞台のあとはいつもこんな感じなんだけどな」
 指に就いたチーズをなめとる萌絵。
「でも、明らかに皿の数が…それに、お肉の量も…」
 視線を萌絵の手元に落とす。
「あぁそっか…。男所帯に慣れてるから気にしたことなかったけど。世間の女子はみんなそんなものなのか…」
 しみじみと目の前に重ねられた皿の枚数を見比べながら、お腹をさすって見せる。

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たゆ・たうひと
いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです