連載『オスカルな女たち』
《 新しい風 》・・・1
人に名前を呼ばれて振り返るとき、なぜか重苦しく、相手にけだるい印象を与えていたように思う。それは無意識に、溜まりに溜まって凝り固まった心の澱みが、いつの間にかトレ―ドマ―クになっていたロングストレ―トの黒髪に、重くのしかかって押し延べられていたからかもしれない。
(まだ、ちょっと慣れないな…)
風にさらわれる髪が首元をくすぐると、軽くなった襟足に手を当て、人に見られないようはにかんで笑った。
ただ長いだけの〈黒髪〉を人は「きれい」だとか「素敵」などと形容したが、本人にとってみれば「トレードマーク」と呼ばれるいわれはなく、いつもそれを払拭させてやりたいとも思っていた。
長い髪はつかさにとって、「鎧」だったのかもしれない…。
(風が気持ちいいな…)
ついと顎を持ち上げ、かぶりを振る。
仕事の途中の買い出しはいつもいい気分転換になった。
「つかさ?」
(…え?)
帰り道で不意に、誰かに呼び止められた。
「つかさじゃないのか?」
声に振り返ると、見覚えのある懐かしい顔がそこにあった。
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