連載『オスカルな女たち』
《 軌道修正型恋愛 》・・・10
今回はつかさの署名捺印ではなく、吾郎の署名捺印がされていた。
「でも、ずっと髪切るの嫌がってたから、不意を突かれた感はあるんじゃない?」
軽く髪に手を触れてみる。
「こだわる側の人か…。確かに離婚するにはいい選択だったのかもね、髪切るの」
そうは言っても半信半疑の織瀬(おりせ)。
「失恋じゃないけどね~」
それは決して負け惜しみではないつかさの今が感じられた。
「さぁ、おりちゃん。おりちゃんもいよいよ、これで最後よ」
そう言ってボールペンを差し出すつかさ。
「緊張するな…」
しかも証人の欄も空白ではなく、ひとり目の署名が既になされている。
「これ、自分で用意してたってこと?」
もうひとりの記載名を見ながら、織瀬はボールペンを受け取った。ただの白紙に名前を書きこむのと、記載され失敗のできない署名とでは気の持ちようが違う。
「そうみたいね…」
もうひとりの証人は、現在吾郎と一緒に仕事をしているつかさの実弟〈大賀舵(かじ)〉の名前だった。
「かっちゃんは、知ってたってこと? それともこのために書かせたってこと?」
翌日のために署名したにしては行動が早すぎるのではないかと、織瀬は訝しんだ。ならば弟の舵の耳にはいつ知らされたのだろうか。つかさの様子からも、そんな素振りはさっぱり感じられなかった。
「それがね、舵に聞いたら、ずいぶん前に書いてたっていうのよ…」
変よね…と合点がいかない様子のつかさ。
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