連載『オスカルな女たち』
《イヴの憂鬱》・・・5
(そう言えば、幸の眼鏡の手入れにびっくりして…)
つき合い始めた頃、おもむろに幸(ゆき)が食器用洗剤で眼鏡のレンズを洗いだしたことがあった…と脳裏によぎる。
眼鏡を使用したことのない織瀬(おりせ)はその姿にぎょっとし、
〈なにしてるの? 大丈夫なの?〉
と、慌てたものだった。
〈油膜を落とすのに、これが一番いいんだ…〉
そう言って笑顔を見せた幸に、妙に男らしさを感じた織瀬。
思いもよらない行動に女は弱いもの、織瀬にとってはそれがときめきポイントのひとつであったと振り返る。
(あたしも単純だったな…)
少し恥ずかしくなる。 ちょうど店を出たところで、見慣れた黒い毛玉が駆け寄ってくるのが目の端にとらえられた。
「あ…」
(もうそんな時間…)
「早かったね…」
軽く手を挙げて合図する。
「思いのほかおりこうさんでねぇ…ちょきも楽しみだったのよね~」
リードを縮めながら、つかさが小走りに駆け寄ってくる。以前ならそのあと、必ずかき上げていた長い黒髪が、今では小さく耳の後ろで揺れているだけだ。
「あたしも楽しみ。よかったらうちの子たちもつれてきたいな…」
そうつかさは、自宅で留守番している3匹のことを思って続けた。
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