連載『オスカルな女たち』
《 内緒話と捨て台詞 》・・・11
その週の土曜日・・・・
玲(あきら)はいつものように少し手前でタクシーを降り、10分程度の距離を愛おしむようヒールの音を響かせて歩いていた。
〈…おじさん、友達いないの?〉
〈え? なんで?〉
〈お休みのたびにいろいろ連れ出してくれるのはありがたいんだけれど…〉
ふと、夫〈泰英〉と出会ったばかりの頃の無垢な自分を思い出し、懐かしい記憶をたどりながら〈赤い部屋〉のあるマンションを目指した。
〈あきらちゃん、気を遣ってくれてるの? 優しいね〉
自分以上に無邪気な笑顔をくれる泰英の言動に、そういうことじゃなくて…と、玲はいつも呆れながら諭していた。
〈この店、気に入らないの?〉
〈そんなことを言っているんじゃないわ〉
そう言ってため息をつき、こんな小娘の言葉にいちいち喜んだり落ち込んだりする大の男を目の前に、歯に衣着せぬ玲は、
〈だって、キャバクラに行くのも仕事をするのもいつもひとりだし、私のような生意気な子連れ女と、こんな風に殺風景なカフェで食事しているし…〉
泰英との食事は、どこの店でもたいていSP付きのVIPルームだった。たとえそれがファストフード店であろうが、ほぼ女子高生しかいないようなかわいらしいカフェであろうが、カード払いでなければ支払えないような高級レストランでも、いつも同じ待遇であった。
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