恋愛体質:BBQ
『尭彦と雅水』
2.party
「かんぱ~い!」
妹たちを送り届けた鷺沢重音が戻った後、リビングではようやっと本来の目的である飲み会が開催された。
「改めての自己紹介はいらないわよね」
そう言って雅水は、自分の両端に座る桃子と寺井尭彦を交互に見た。
「トーコは大丈夫? 全員と話しできた?」
「うん。挨拶くらいだけど」
「あたしと砂羽は、何度か会ってるっていっても、みんな『はじめまして』も同然だから」
場を盛り上げようとしているのか、すでにアルコールが回っているのか、雅水の様子はいつも以上にはしゃいでいるように見えた。
「でも。改めて膝突き合わせてこうしてると、妙な感じよね」
くじ引きとはいえ、上石友也と荻野唯十のふたりに挟まれた砂羽は落ち着かない様子だ。
「結局、ふたりの仕事はなんなの? そもそもなんでふたりでやってるの?」
雅水は目の前のソファに、砂羽を挟んで座るふたりに質問を投げかけた。
「うわぁ質問攻めだぁ。もしかして雅水さんはユウヤさん狙いなんですかー」
人懐こそうに答える唯十だったが、それが雅水にはバカにしているように受け取れた。
「そういうことじゃなくて。純粋になにを売ってるのかなって思っただけよ。移動販売って言ってたけど、コーヒー? メロンパン? 」
そして雅水はあえて友也の方を見た。
「あぁ、いろいろ」
アルコールは「いただかない」という友也はコーラの入ったグラスを片手にそう答えた。
「いろいろ? 飲食じゃないってこと? 野菜、とか?」
「僕たちが車に乗ってるわけじゃないんです」
「だよなー。おまえら自分で動くタイプじゃねーもんな」
肉を頬張りながら、桃子に隣接する丸椅子に座る重音はビールを流し込んだ。
「移動販売車をやってる個人経営者何人かと契約をしてまして、面倒な場所の確保やその他手続きをこちらで担って、売り上げの何パーセントかをいただく…という感じですかね」
にこにこと悪びれもなく答える唯十は、最初の印象とは違いなにやら薄暗いものを孕んでいた。
「それって…ビジネス?」
雅水が言葉を考えあぐねていると、
「上前跳ねてるだけじゃね?」
重音が毒舌を吐いた。
「悪徳業者みたいな言い方やめてくださいよ~。ちゃんとしたビジネスですよ。手続きっていろいろ面倒なんで」
「まぁそうだろうけど」
勝手の解らない砂羽も、唯十の笑顔にはなにか危ういものを感じたようだ。
「僕、家が不動産屋で」
「へぇ」
「家が不動産屋さんなら、なんでホストやってたの?」
それはだれしも気にかかる、シンプルな疑問だった。
「またしつもーん。僕のこと狙ってもダメですよー。僕はユウヤさんに心酔してますから…」
いちいち的外れな言葉に、雅水は少し眉を歪めた。
「いい加減にしろよ、ユート」
業を煮やした友也が睨みを利かせる。
「はーい」
ちょこんと肩を竦め、唯十は「反抗期…みたいなものですかね?」と、無機質な答えを返した。
「え、あなたいくつなの?」
当然自分たちと同じ年齢と思っていた砂羽に、
「22でーす。おねぇさん」
含みのある言い方をする。
「やな言い方するなぁ…3つしか違わないじゃない」
そんな態度に雅水は、さすがに嫌悪感を募らせる。
「3つ違えば学校では会いませんよ」
「あなたの笑顔怖いわ~。最初はホストって聞いてどうかと思ってたけど、素質充分って感じ」
雅水は徐々に言葉に棘を含ませる。
「アハハ。褒められてるのかな、それは」
「ある意味。なんか勧誘とかされたら、無条件で名前書いちゃいそうな雰囲気がある」
「ちょっと、雅水」
さすがに異変を察したのか、桃子が止めに入るも、
「そんなことしませんよ。それより、街コンの話聞かせてくださいよ。そっちの方が興味あるなぁ」
悪びれない唯十が切り返す。
「無理矢理持っていくわね」
「だって興味あるじゃないですか。他からの誘いはなかったんですか? ユウヤさん以外に」
笑顔で話してはいるものの、どうにも唯十の言葉の端々には突っかかるものがあった。
1.defenseless 3.step into