見出し画像

蜜月の刻(とき)

2人目のインタビュイーは普通の主婦だったが、その胸の内に秘めている思いは普通とは言えないようだった

「それが、あろうことが『中絶の経験がある』と言ってしまったんです。しかも女優のように『あの痛みが忘れられない』なんて演技までして」

手っ取り早く信じさせるには、それが最大の見栄だと思ったのだという。

コーヒーデリバリーサービス:笹生多佳恵

時に人は、自分を飾るための嘘をつく。だが、それが「中絶」の経験とは、飾るどころか傷にもなりかねないだろう。

「なんでそんな嘘を?」

「実は、高校時代の友人が、生理中のひどい出血と腹痛で病院に駆け込んだことがあって、妊娠に気づかずに流産してしまった…ということがあって」

「まぁ…」

「彼女の経験を、そのまま聞かせたんです。同情を買いたくて」

ひょっとして、その嘘をついた相手に、彼女は恋をしていたのかもしれないと思った。

「学生時代は勉強ばかりで、挙句に女子大に行ってしまったのものですから、気づけば周りは彼氏ができて楽しそうで…。中途半端に知識ばかりがあったものですから、自分だけ『経験がない』とはいえずに」

「嘘をついた、と」

「偶然会った同級生の彼に、なんだかカッコつけたくなったというか…。バカみたいな話ですけど」

それにしたって、だ。あとあと妙な噂でも立てられたらどうするつもりだったのだろう。しかし、そんなことを考える余裕もなかったんだろうな…

「その時はそれきり、彼とは合わなくなりました。けれど…」

まだなにか・・・・!?


いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです