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シンデレラコンプレックス

第7話 『現実に生きる乙女はたくましい』3


おとぎ話に出てくるお姫さまは、決して無知ではなかったはずなのだ。

無知であったなら、森の中に置き去りにされて生きながらえるはずはない。
無知であったなら、ひとりで子どもを産んで生活できるはずがない。
無知であったなら、目の前の不運に一筋の光を見出したりすることはない。

動物と会話ができるだとか、現実離れした生き物の出現などのファンタジー要素を除いても、勇気と優しさをもって生き抜く術はちゃんと教えてくれている。

もちろんそれは、現実に生きる自分たちの身勝手極まりない解釈なのだろう。しかしながらお姫さまには、たとえボロを着ようとも、たとえ悲恋だろうとも、美しく語られるだけのしあわせ要素ハッピーエンドが備わっている。

だれもがそれを望んでいるが、だれもがそれを手に入れられるわけではない。


義務教育子どものうちは、自分の意見や要望など畳みこまれてしまうのは解っていた。だから高校進学は、簡単に他人に出会うことがない外部の人間と接触を断つよう寮のある学校を選択し、準備を進めた。とにかく、養父母との縁を早々に断ち切らねば…と考えたのだ。

中学時代はなるべく目立たないよう、息をひそめて暮らした。
幸い卒業までは、世話になっている養父母の苗字を名乗っていたため、身の上の詮索を受けることなく済んだ。
高校はなるべく他人を気にしなくていいように進学校を選び、本名を名乗ろうが「乾」の噂など都市伝説程度にしか受け止めていない賑やかな土地に暮らし、自分の境遇を気にせずとも良い環境に身を置くことが出来た。しかし、それも大学受験までの僅かな期間でしかなかった。

子どものいない養父母に「子どもを欲していた」様子はまったく見受けられなかった。ゆえに、年頃の子どもの面倒を見る煩わしさは、年齢が行けば行くほど増していくものと想像に難くなかったのだ。おそらくあっさりと手放してくれるものと安心していたのだが、それ以前に先立つ生活費の問題が浮上したのだ。
「金の切れ目が縁の切れ目」とはよく言ったもので、由菜歩ゆなほの持参金は湯水のように使い込まれており、高校進学その他の資金を確保することは非常に困難のように思われた。結果、第三者養育係の手を借りるほかなかったのだ。


歩稀ほまれ、また背伸びてたよ。和歩かずほなんかオレのことおじさん扱いしてやんの」
異母兄弟に会ったあとの歩多可ほたかはいつも楽しそうだった。

「そりゃ和歩はもう中学生だし、大人の男は敬遠する時期なんじゃないの」
そんな歩多可を見るとき、由菜歩はいつも、自分は「本当は一緒にいるべきじゃない」のではないかと思うのだ。

「思春期か? 生意気~。ついこの間まで『ほたくん大好きー』ゆーてたのに、女ってこえ~な」
「あんたにだって、そんな時はあったでしょ」

「オレは大人だった」
「あぁ、そうだったかも…。それにしても」

「なに?」
「なんでもない」

(あの子たちのこと…)
まるで、自分の子どもみたいにいうね。



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