連載『オスカルな女たち』
《 治りにくい傷 》・・・8
「なるほど。じゃ、したくないわけでは…ない…?」
おそらく真田も同じように楽しんでいる。うぬぼれでなくそう思えるのには、今目の前にいる真田の表情は、店では見せないプライベートな顔をしているからだろう。
「それとこれとは別」
「やっぱり…?」
「あたりまえです…」
「残念…」
(ぬけぬけと…)
織瀬(おりせ)は小さく溜息をつき、
「…あたしはね、面倒な女なの。だから、ただ『キスしたい』って言われても…。なんで? どうして? なぜあたしなの?って思うわけ…」
「なるほど」
「とにかく。理由がほしいのよ。『ただしたいだけ…』って言われたら、あたしじゃなくてもいいわけだし…?」
(そう…。どうしてもあたしじゃなきゃダメって理由じゃなきゃ…許さないし、冒険できない…)
冒険…? 自分は、既にこの男に期待してるのだろうか。
「ということは、『したいだけ…』は不正解ってことですね」
「そういうことになる…かしら。だいたい、そんな言われ方したら…バカにされてると思うし」
織瀬は急に、居心地が悪くなる。このまま、こんなやり取りを続けていたら、いずれ落ちてしまいそう…そう気づいてしまったのだ。
「帰るわ…」
「送ります」
「いいわよ」
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