しゃべるピアノ
「ね、ちょっと。そこの…そこのおにーさん」
誰もいないはずのホールの上から声がする。
「ぁ聞こえた?」
「ハイ…?」
「ねぇピアノ弾いてみなぁい?」
妙に艶っぽい声だ。
「ぴあの?」
「そう、そう、ピアノ」
言われて振り返ると舞台上にグランドピアノ。
「あぁ~ん。そっちじゃない! こっち」
どうやら声は舞台袖からするようだ。
「そうそ、こっち。あたしよ」
舞台袖、壁際の暗がりに木造のラップピアノが見える。
「あたし? え、ピアノ?」
「だからそう言ってるじゃない?」
確かにピアノの方から声がする。
「よかったわ~。さぁ蓋を開けて弾いてみて」
「弾いてみてって」
「弾けないの?」
「弾けますけど」
キョロキョロと周りを見渡し、ピアノの前に立つ。
「さぁ蓋を開けて、弾いてみて」
言われるまま、オレはいったいなにをやってるんだ…と小首をかしげ、いち音。
ぽ~ん…
「だめだ、調律がなってない」
「え、ちょっと。ちょっ待ちなさいよ! ちょっと」
「空耳だ。空耳」
「え~」
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