昼寝して、
まったく流行っていなそうな歯医者にいたのだ。
どこから入ったのかは解らないが、その場に自分が存在することを認識した途端に「失敗した」と思えるくらいに気まずい状態だった。
まず歯科医が若い。そして吸血鬼のように白い。白衣が黒かったら、それと見紛うほどの異様なオーラを放っていた。
しかしその歯科医は、意外と人懐こく話しかけてくる。だが如何せん、不気味さを孕んでいるがゆえに、どんなに親しみやすく話し掛けられようとも笑顔で答えることができなかった。
どうやら治療のためにそこにいるわけではないらしい。というより、その不気味な歯医者はポーズだけで、治療はせずにこちらの話を聞くだけらしい。
治療もしない不気味な歯医者に、意気揚々と、わたしは自分の歯の状態をこと細かに話して聞かせる。健康診断の問診なみに、とにかく自分の歯に関することを漏らさず伝えようと頭を使って答えた。
それはまるで自慢話のように、歯が抜けたときの違和感や、はじめて虫歯になった時のこと、歯医者の印象、はじめての親知らず…等々、そして歯の磨き方まで。
歯医者はいちいち感嘆する。「へぇすごいね」「珍しい」「やったぁ」と、無気力な言葉を発するが、全然響いてこない。
診察台の上に足を組み、ちっともすごいと感じてはいなそうだし、ライトをカチャカチャと動かしながら、まったく珍しくもないことにいちいち反応する。それがとても不快だ。なぜなら彼の反応はすべて、こちらをバカにするような態度で、失敗を喜んで揚げ足を取り子どものようにはしゃいでいたからだ。まるで、こちらの間違った知識を「ざまぁみろ」と蔑んでいるかのような、そんな口調だった。そのうち、歯槽膿漏や歯肉炎になった経緯などを聞き「そりゃそうだ」と手を叩いて笑った。
「で、どうすりゃいいの?」と、結果的にこちらは、診察とは名ばかりで、ただの失敗談を暴露させられたかのような、恥ずかしい気持ちを抱えて終わることになる。
彼は治療をしない。しかも自分が診察台の上に寝転んで、スポットライトを浴びるかのようにライトを顔に当てほくそ笑んでいる。
わたしは彼の傍へ近づき、顔を覗き込んで気づいた。よくよく見るとメイクをしているようだった。しかしながらそれを、彼に言うのは憚られた。なぜか悪いように感じた。
ただの色白ではないようだ。吸血鬼が血色をよくするためにピンク系のファンデーションを塗っているようにさえ感じたからだ。
別に気を使うことはなかった。散々人の歯の状況を聞いて、診察もせずにただバカにした相手だ。そんな相手を気遣うことなどないのに、なんとやさしいことか。
そいつは最後に、有名な歯医者の名前を教えてくれた。その時は有名と感じたけれど、本当に有名なのかは解らない。けれど「聞いたことある!」「すごい人知ってるんだね」と喜んでいる自分がおかしかった。
少し遠出をした日の夢。目的地に着くまで、たくさんの歯医者さんの看板を見た
そういえば来週「定期健診があるなぁ」なんて考えながら、たくさんの看板を眺めていた。だからそんな変な夢を見たのだろう・・・・