”彼”らの事情~出会い
「入部テストおこないま~す」
教卓の前で、上級生が紙の束を振る。
ざわざわ・・・・
「入部テスト?」
「聞いてないぜ?」
「そんなサークルかよ」
「入部テストと言っても、これは洒落です。新入生歓迎のちょっとしたお楽しみで~す」
「気軽に回答してください」
そう言って女子の先輩が短い文章のついた用紙を配った。
「お題は…『月が綺麗ですね』です。我が文学部を希望する諸君にはありきたりすぎる言葉だと思う。この言葉に対する返しを回答して今日はおしまいです」
・・・・月が綺麗ですね
本当にその一行分しか書いていない。
だが、なにが正解なのか…?
ここは『文学部』のサークルだ。正解は「死んでもいいわ」だろうか?
だが、
(この用紙の余白は「死んでもいいわ」だけの為ではない…かもしれない)
深読みだろうか?
だって、洒落だろ?
ガタリ…と隣の新入生が立ち上がった。次に斜め前の女子、最前列の男子…
たった一行の答えを書いた奴ら。
「回答が終わったら前に提出して帰ってくださーい」
「この答えで組み分けをします」
組み分け…ということは、
(最低でもyesとnoがあるわけか…)
「すいませーん。組み分けってなんのためですか?」
「活動としては書評や聖地巡礼などですが、やみくもにブックトークしても仕方がないので、6~7人体制のグループに組み分けて、季節ごとにシャッフルします」
ざわざわ・・・・
ひとり、立ち上がるのをやめた。
数人が消しゴムをかけている。
なるほど、それは面白い
(答えはyesとnoだけじゃない…)
「今年の新入生はどうだ?」
「千堂、お前も選べよ。今年は多いから、面白いのがあるぞ」
「やっぱり『死んでもいいわ』がダントツね…」
「今年はどれくらい残るかな」
「知らないやつも…いるか。『そうですね』だってよ」
「まず、yesとnoに分けるか…『太陽の方が好きです』『星も綺麗です』と…あっは『私は?』ってのがあるぞ」
「新しいな」
「随分と講釈が書いてあるのもあるわ。今年は楽しみね」
「答えじゃないものもある。『千堂先輩と組みたい』だってよ~相変わらずだな、千堂人気」
「どうでもいいよ、俺は。どうせ客寄せだ」
「おいおい、夏休み前まではいてくれよ。去年みたいに辞められたんじゃ『聖地巡礼オリエンテーション』が盛り上がらないからな」
「純粋に〈純文学〉について語り合いたいって時代は終わったのかしら…。あら、これ…。やっぱり今年は面白い子が多い」
《 解答;yes 》
「死んでもいいわ」・・・・12
「星も綺麗です」・・・・3
「このまま時が止まればいいのに」・・・・2
《 解答;no 》
「太陽の方が好きです」・・・・4
「そうですか?」・・・・6
《 選外;yes 》
「そうですね」・・・・2
「団子でも食べますか」・・・・1
「おなかが空いてきましたね」・・・・1
「あなたの方が素敵です」・・・・1
「あなたもおキレイです」・・・・1
《 選外;no 》
「月の裏側はどうでしょう」・・・・1
「うさぎはいませんね」・・・・1
「今日は満月ではありません」・・・・1
「わたしにはみえません」・・・・1
《 戦力外 》
「じゃぁ、私は?」・・・・1
「もうちょっと、ハッキリ言って」・・・・1
「千堂先輩と組みたい」・・・・1
「早く帰りましょう」・・・・1
「今日の月は今宵限り。
もう一度同じ月を見れたならそれは運命かもしれません」・・・・太田臣高