カニ鍋

連載『オスカルな女たち』

《 最初で最後の晩餐 》・・・2

並べられたシャンパングラスに丁寧に、引っ越し祝いに自分が持ってきたピンク色のスパークリングワインを注ぎ、対面キッチンの狭いテーブルの下の壁の色に目を移す。
そこは数か月前まで〈離婚届〉をため込んでいた書類棚が置いてあった場所で、真っ白な部分がつかさの人生の年月を物語っていた。
「使わないものとか、痛みが激しいものは処分する。新しいアパートに、極力ここのものは持ち込みたくないと思って。それはこっちも同じなんだけど、さ…」
と、あまり持ち出しが少ないことを申し訳ないと思っているのか、弟たちの新しい生活に遠慮している部分が窺えた。
「もっていくのはタンスの中身と、犬のものだけ…」
今の時代、婚礼ダンスを持っている主婦は少ないだろう。クローゼットの中身を断捨離しながら荷造りするのだ。苦い思い出の残るこの家に、つかさが持ち出す品物など既に限られているということだろう。
「そう…」
だから自分の車だけで済むのね…と、つぶやく玲(あきら)。

ここにある荷物は、ほとんどが吾郎と共有していたものだ。それは新しい門出には不必要なもの。
「さぁはじめましょうか」

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