”彼”らの事情
無事、アパートの契約を済ませた帰り道、コンビニでビールを買って公園に寄り道した。
「すぐには入れるみたいでよかったな」
「早々に荷造りしないと、これでもうこそこそしなくて済みますよ」
「月がキレイだな」
奏詩先輩が、空を見上げてそう言った。
これは、文学的に変えさねばならない…と、咄嗟にそう思った。だけど、
「死んでもいい」とは答えたくはなかった。
答えあぐねていると先輩は「吸い込まれそうだ」と続けた。
その瞬間先輩の姿が透き通って消えてしまうように見え、咄嗟に腕を掴んだ。
「行かないで…」
(なにをいってるんだ)
「あ…ボクは隣で見ていたい」
手を放す。
空を見上げて、再び
「ボクは、先輩の隣で先輩の目に映るものを…見ていたいです」
今度は先輩のほうが手を握ってきた。
「そうだな、できれば。ずっとおまえとこうしていたい」
それだけで十分だと思った。
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