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連載『あの頃を思い出す』

    2. 重なる偶然=必然・・・4


「わかった、すごい感動的なプロポーズだ」
 プロポーズ、といわれて言葉に詰まる。
「でしょ! そうなんでしょ~」
 うれしそうに覗きこむありさ。上手く誘導尋問されてしまっているようだ。
「なんども言うようだけど、結婚してないから『旦那さま』は間違いよ」
「いいじゃないですか、そこは」
「よくないわ」
 どうしてもこだわってしまうのには、結局自分の立場は子どもがいようといまいと変わらないというところにあった。
「実はあたしも自分からプロポーズしてたりして…」
 意味深な含み笑いで返す尚季(ひさき)。なんだかんだとそれなりに楽しいこともあった。
「えー! なんていったんですか!」
「そこまで」
 ありさの目の前に両手をかざし口を閉じる。
「うそ、聞きたい!」
「内緒。あ…」
 すがりつくありさを交わし、アパートの階段を駆け上がろうとしたときだった。
「どうしたんですか?」
 肩越しに覗くありさ。
「まーま、おかえりー」
 最上段に小さく座り込んでいる長男〈一葉(いちよう)〉だった。
「あー待っててくれたんだ。やーだ、かわいい。こんばんは」
「こん、ばんは」
 細々と答える一葉。
「ケンカでもした?」
 ありさの後ろから優しく問い掛ける尚季。心なしか一葉の目は赤かった。
「だって、はなちゃんが…」
 涙を無理に押さえようとする。
 そんな一葉を抱え上げる尚季。
「あーはいはい、ようくんはやさしいねー」
 おおかたなにかの取り合いで無理やり遠慮させられたのだろう。幼児の頃の男の子は同年代の女の子に弱いものだ。たとえお兄ちゃんであっても。
「あたし、今日は帰ったほうがよさそうじゃないですか?」
 状況におくするありさ。
「あら、気にしないで。すぐ治まるから」
「でも」
「どうせはなは帰ってこないでしょ。ほら、明日のおはなし会のリハーサル、しないと。…あがって」
 言いながら一葉のお尻を軽く叩く。
「はい。…尚季さんって、やっぱりママなんですねー」
 しみじみと顔を覗き込む。
「なに言ってるの」
 深く感心するありさ。もし本当に自分が妊娠していたなら、子どもが生まれたら、自分もこうなるのだろうかと想像するのだった。

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