待ち時間のえちゅーど6
最近自分のやることに限界を感じている・・・・
進退を迫られているわけではない。むしろ期待されていると感じていい。
ただ、これ以上は「登れないのかな」という諦めに似たものが、自分の中に在るということ。
寝不足だった。
珍しく、活字を追うのに夢中になって、気が付くと朝だった。いや、途中「明るいな」とは感じていた。その日は遅出で、昼前の出勤だったから、時間こそあれいい加減「寝なきゃ」とは思っていた。それでも、区切りのいいところを探しながら、新しい章を繰っていた。
久しぶりだった。それは「没頭」というほどではないけれど、やめられない自分が嬉しくもあった。
気持ちのいい朝を迎えられたのかと問われれば、そんなことはない。もう、薄暗い布団の中で細かい字をサクサクと追える年齢でもない。当然頭は痛いし、肩の具合もおかしい。片腕は冷えていて、布団の中に避難しても冷気がつきまとう。そんな朝。
読後感は…嫉妬。
別に「恋愛小説」を呼んでいたわけではない。ライターを生業としている自分には、どんなものを読んでも、感想が良ければ良いほど、気持ちの中には「嫉妬しか残らない」ということだ。我ながら悪い癖だとは思うが、仕方がない。だが、しっかりと「やる気」だけは手に入れる。それが仕事につながるかは別として・・・・
少し眠れるかと思った。以前ならいくらでもそこから眠れた。でも、目頭が痛くても睡魔はやってこなかった。
仕方なく起き上がり、重い肩を鳴らして階下に向かう。冴え切っているのは眼目だけで、体全体は未だベッドを恋しがっている。とりあえず「コーヒーか」と思いお湯を沸かした。
これも徹夜か…と、普段は入れない砂糖をすくってその行動に苦笑する。
多分「糖分が必要」だと、なんとなくの行動。だけど、飲めなかった。湯気に乗せられて立ち上る香りだけで充分だった。熱燗を目の前にしただけで酔ってしまう、下戸のような気分。
折角時間に余裕があるのだから…と、ランチを作ろうかと冷蔵庫を開けてみた。しかし、習慣のない行動に見合うだけの仕込みが、庫内に待機しているわけでもなく、材料には無理があった。我ながら「生活力に欠けるな」と、調味料しか入っていない冷蔵庫にため息をしまう。
こんな日はたいてい、起きるとすぐに「今夜は早く寝るぞ」と決意する。だが、その決意のほとんどが予定に終わることが多い。解っているのに、決意だけは物凄く固い。それを鑑みるに「起き抜けの宣言は効力を持たない」という条約が出来そうだ。
朝の決断は当てにならない。かといって、夜の決断が有効かというとそうでもない。夜は感情的すぎるから、翌朝に白紙になることが多い。つまりはいつ決断しても無駄…ということになるが、公言すると一変、そうでもなくなる。ひとは単純だ。おそらく、そういうひとは見栄でプライドを維持しているのだろうと、自分を考察する。
さて、支度をしなければならない。「女の戦闘服はまず顔から」が、わたしの持論。昭和生まれなのでね、近年すっぴんが推奨される世の中で、心の奥底に「エチケットメイク」が、届かない耳垢のようにへばりついている。だからと言って、幼い頃に見た訪問販売の毒臭を漂わせていた「おばさん」のようにはならないよう心掛けている。あれは公害だ。よって、公害にならない程度のエチケットを施す術を身に着けた。いくつになっても学ぶことは尽きない。そんなことには貪欲になれるのに、と飽きっぽい性格を嘆く。
寝不足ではあるが目はしぼんではいない。むしろやる気に満ちているようにさえ見える。ただの徹夜明けテンションではあるが、この「やる気」は重要だ。
今日のテーマは「ラーテル」。
ラーテルは小柄ながらに肉食動物にも果敢に立ち向かう。そんな強さが欲しいメイクは目力重視!
唇の輪郭は形よく、艶やかではっきりと! ちょっとやそっとの椿に負けないしつ濃さが大事。
ふわふわしてたら相手になめられる。だから、髪はタイトにまとめて、おでこを出してしっかりと意思表示!
襟元はスッキリとしながらも、凶器を孕んだ一粒ダイヤのネックレス。
だてに自分に金を掛けちゃいない。それなりのキャリアとスキルを持って立ち向かう。
昼からの会議に向け資料は万全!
特攻服も身に着けた。
すっかりと冷え切った甘ったるいコーヒーを一気に喉に流し込み、ゴクリと喉を鳴らして、いざ出陣!
自分の可能性に期待を寄せる待ち時間のエチュード。自分を鼓舞するために必要な即興。