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シンデレラコンプレックス
第2話 『冷めた乙女の心を溶かす妙薬』5
「お取り寄せってできるかな」
「あら珍しい。お買いもの?」
「あーナナ江ちゃんまで皮肉?」
「…まで?」
「だってあたし、店長に睨まれてるから」
「そんなこと…」
「ない?」
「どうかな」
一瞬、ナナ江ちゃんの顔が引きつった気がした。
「え、マジで嫌われてる?」
「気になる?」
「別に。でも、暇があったら聞いといて」
この頃、なんとなくナナ江ちゃんとの会話がギクシャクしているように思うのは、どうやら自分だけが感じているものではないようだ。
(悪いことしているわけじゃないのにな…)
「どんなもの探してるの?」
「ぁ、えーとね、前にそこにあった皮ひものやつ」
「チョーカーとかブレスレットになるやつ? 誕生日かなにか?」
「そうじゃなくて。もうすぐあたしたちの記念日だから」
「あたしたち…?」
「うん。歩多可と、あたし」
「歩多可くん?」
「うん…あたしたち、お互い誕生日は祝ったことないの。あまり喜ばしいことじゃないから」
因縁の家に生まれたわたしたちは、誕生日が来るたびにびくびくとしていたものだった。
「なにかペアのものって思ってるんだけど。あれ、どうかなと思って」
「いいんじゃない? カタログ見る?」
「ナナ江ちゃんはさ、好きなひとのためなら泡になってもいいと思う?」
品物を選び、初めてこの店での買い物を終えたあと、ついいつもの調子でレポートの話題を切り出してしまった。
「また唐突だなぁ…」
「ごめん。再提出のレポート『人魚姫』なんだ」
「人魚姫?」
「うん」
「そうだなぁ。場合…に、よるかな」
「場合?」
「人魚姫は結果的にはしあわせのうちに泡になっていくわけでしょ?」
「しあわせ…だったのかな」
「そうね。もしかしたら…苦しかったのかもしれないね」
苦しかった?
そうかもしれない。お互い好き同士だったにもかかわらず、相手にそれと伝わらずに敗れた恋。
「でも…理由はどうあれ、ふたりの女性が。あ、人魚っていう部分を除けばね」
「うん」
「同時に同じ人を好きになったってだけで、そういう場合、相手の気持ちがどうこういうよりも、好きな相手に思いを伝えるための駆け引きっていうのがあったと思うのよ」
「なるほど」
「その結果が、人魚姫は気づいてもらえなかったっていう結果だったんじゃない?」
「…すごいね。恋をすると、そんな風に考えられるんだ」
(ちょっとびっくりした)
「ユナはどう思うの?」
「うん。確かに、どうにかして伝えられなかったのかな~って思う反面、やっぱり…身分違いというか、最初から勝ち目のない勝負だったんじゃないかと。だからって泡になってまで…」
「じゃぁユナは、王子さまを殺してしまうのね」
「ぁ…」
(そう言われてしまうと、どうなんだろう)
「出会い方や順番が違ったら…」
「でも、結果は泡だったんだよ」
「なんか、意外…」
「そう?」
「だって。この前までなにを言っても『お話だから』って言ってたのに。恋って、そんなにも強くなれるんだね」
「強い、ねぇ…」
そうナナ江ちゃんは反復し、なんとも言えない笑みを浮かべた。
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