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The New Yorker と フレンチディスパッチ

公開中で話題のウェス・アンダーソン監督 「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」ですが、モチーフとなっている The New Yorker という雑誌があります。

動く雑誌のようなこの映画をより楽しむために、知っておくともっと楽しめるThe New Yorkerのお話を中心にnoteにしてみました。

ニューヨーカーからインスピレーションを受け続けている

2.2のDOMMUNEにて

監督は、ニューヨーカーからインスピレーションを受け続けていて、お部屋には50年分くらいのバックナンバーがあるらしいです。
実は犬ヶ島もスペインで撮った次回作も、元々はニューヨーカーをベースに創起したアンソロジーのように色々なストーリが入ったフレンチディスパッチのエピソードのひとつだったそうです。
それらが膨らみ、一本の長編になったという経緯があるそうで、これは「聞いてないよ!」とインタビューしていた野村訓市さんも驚いていました。
ちなみに次回作はもう出来上がっていて、その次の作品に取り組んでいるそうです。楽しみですね!

ニューヨーカー誌によるインタビュー


The New Yorkerとは

この有名な雑誌は1925年2月17日に2月21日号として創刊。創始者は『ニューヨーク・タイムズ』のレポーター、ハロルド・ロス。表紙は初代アートディレクター:リー・アーヴィングによるもの。
この有名な紳士の名前は紳士はユースタス・ティリーという名前で、今でも毎年2月の創刊記念号の表紙を飾っているそうです。

1925年創刊号と2021年の2月の表紙

1925年、ハロルド・ロスは『ニューヨーカー』を創刊し、マンハッタンを中心に「fifteen-cent comic paper」と呼ばれる軽快な雑誌を創刊した。現在、『ニューヨーカー』は世界で最も影響力のある雑誌と言われ、綿密な取材、政治や文化の解説、小説、詩、ユーモアで知られています。週刊誌に加え、newyorker.comは、スタッフ・ライターや寄稿者によるニュースや文化的な報道を毎日配信するデジタルサイトとなっています。The New Yorkerは、紙媒体でもオンラインでも、真実と正確さへのこだわり、質の高い文章、そしてすべての読者を刺激し感動させることへのこだわりで、他の追随を許さない存在です。

newyorker.com

歴史については作家・翻訳家の常盤新平さんのニューヨーカーの時代や「ニューヨーカー短篇集」などに詳しいようですが、こちらの記事も参考になります。


象徴的な表紙


ニューヨーカー誌と言えば、アートワークにとても惹かれますが、ニューヨーカー誌アート・ディレクターのフランソワーズ・ムーリーが語る、アートディレクションや、象徴的な表紙イラストの舞台裏の話はとても興味深いです。

彼女は過去24年間、この雑誌の名高い表紙の決定に携わってきました。9/11直後の週には黒地に黒で描かれたツインタワー、そして最近はトレードマークの紳士ユースタス・ティリーをロシア風に描いたイラストを手がけました。イメージを回顧しながらムーリーが考えるのは、シンプルなイラストが、いかにして私たちが毎日目にするイメージの洪水を突き破れるか、そしていかにして時代のある一瞬の感覚(そして感性)を上品に捉えることができるかということです。

The stories behind The New Yorker's iconic coversFrancoise Mouly TED Talk
左から9.11、ロシア風のユースタス、オバマとトランプの象徴的な選挙戦タイミングの表紙

歴史に残るような素晴らしくて有名な表紙もたくさんあります。サイトも気が利いていて、シュールでユーモアたっぷりのイラストが各所にあふれています。今だに発行部数も伸びている稀有な雑誌です。しかし、そんなニューヨーカー誌も時代に沿わない古い体制の時代もあったようです。

無料のページのおしまい、サブスクへの誘導もしゃれてます
どこかおかしみのあるシュールなイラスト

私は24年前 アートディレクターとして ニューヨーカー誌に招かれました 当時 少し古臭くなっていた体制を 若返らせること、そして新たなアーティストを招いてこの雑誌を象牙の塔から引きずり出し時代との関わりを築くことが目的でした

The stories behind The New Yorker's iconic coversFrancoise MoulyTED Talk

私は図書館へ行き リー・アーヴィンが1925年に描いた 創刊号の表紙を見ました 片めがね越しに蝶を覗く 紳士のイラストで 彼の愛称は 「ユースタス・ティリー」です。
ニューヨーカー誌が 徹底した調査と長文の記事で 知られるようになるにつれて 次第にユーモアが 失われていったことに 気づきました
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私は その図書館で 大恐慌の時代精神を見事に捉えた イラストを見つけました。それは単に人々の装いや 自動車のフォルムを 描き出すだけでなく 人々が何を見て笑い どんな偏見を持っていたのかまで 表していました。
1930年代に生きるとは どういうことか 本当に知ることができたのです。
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私はよく 物語を志向する アーティスト ― 漫画家や児童文学作家に声をかけ 色々なテーマ 例えば 地下鉄に乗っている時の様子とか バレンタインデーといったテーマを与えて スケッチを送ってもらいました。
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私が気に入っているのは そういうイメージが 考え方を押し付けることなく見る者を考えさせるところです というのも アーティストが… イラストは パズル的なのです アーティストが描いた点を 読者が結んで 絵を完成させなければなりません。
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これらのイラストが ステレオタイプを使って遊ぶかを 目の当たりにし、それを理解することで頭の中のステレオタイプは変化します
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崇高なものにしろ 馬鹿げたものにしろ アーティストには 今を捉える力があることがわかります アーティストたちが インクと水彩絵の具だけを手に
時代を捉え文化的な対話を 始めるのです
今 私たちに必要なのは 「よい漫画」なのですから

The stories behind The New Yorker's iconic coversFrancoise MoulyTED Talk

時代に合わせてアップデートしていくことの大事さと、イラストやアーティストの力、そしてアートディレクションの醍醐味を感じるエピソードだと思います。

みんな大好きニューヨーカー誌

パンフレットもとても読み応えがあったのですが、山崎まどかさんのコラムに共感しました。

私たち読者が好きだったのは、「ニューヨーカー」以上に常盤新平の仰ぎ見ると”遠いアメリカ”の「ニューヨーカー」だったのだ。
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これから「ニューヨーカー」を手にする新しい読者たちは、ウェス・アンダーソンの憧れのフィルターを通してこの雑誌を読むことだろう

「ニューヨーカー」への憧れが循環し、反射してプリズムみたいに輝いている

心が勝手に「憧れ」で補填をして本物以上に想像上のものが美しくなり、幻想が幻滅を産むこともありますが、同時に豊かなことでもり、自分のなかでもこういう感覚はすごくよくわかるなと思います。


「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」のアートワーク

ウェスアンダーソンのクリエイティブチームが彼の最新映画のためにフレンチディスパッチマガジンをどのようにデザインしたかについての記事


表紙を手がけたイラストレーターJavi Aznarezさんのアカウント

その他おすすめ


Podcast
ウェス・アンダーソン監督についての濃ゆいお話の回です。観賞後考察も楽しみです!

こちらの動画も気になります


以上をインプットして観ると、より味わいが増すと思います!
なかなか劇場に行きずらいのタイミングではありますが、劇場で観るべき一本だと思います。

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