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芸術体感

美術館には幼い頃よく行った
母に連れられなんとなく見ていた絵
有名なんだな、それだけだった

でも最近はどうにもちがう
海や山に行きたい紅葉見たいみたいな感じで
絵が見たい
ただそれだけで
いつのまにか誰にも言われずとも自分でチケットを買って美術館に行くようになった
知識もない技法も知らない
なんなら心動いた絵や作者も満足に覚えられない
それでも絵が見たい

大原美術館で陽の死んだ日を見た
もうどうなってもいい、きっと高価な絵の具が画面いっぱいの感情、温度、匂いで溢れていて
蝋燭の炎が渦をまいて熱くて冷え切っていた
今にも動きそうな臨場感ともう動くことのない絶望感のなかで、死んだ後の完全に残された側のそんな体験だった
私が死んだ時きっと君がする体験だった
おいおいと泣いた
初めての経験だった
1人でよかった
そのあとはまるで葬式の帰りのようで
帰る前に酒を飲みたかった

坂本夏子の訪問者を見た
左右で手を隠して絵を見比べたり、わざわざ逆走して2階から絵を眺め直したりした
光が差し込んで昼でも夜でも夕方でもない
今何時?ってなるような微睡のなかで
心地よく漂った
ここが天国なのかもしれない
吸い込む空気がおいしくて
ここが帰る場所じゃないことを恨んだ

ふらっとよったミュージアムで塗り絵をした
水とグレーと緑の肌しかのせてない絵を見て
通りすがりの少年が綺麗とこぼした
待って
ここからなんだ
君にも見てほしい
私の見た世界を
それでもを重ねた今を
救われたり思い詰めたりしながら塗った
できた絵はびっくりするほどよかった
塗り絵の線画が良すぎたのかもしれない
私の人生が反映されていた気がした
店の人が褒め、通りすがりの外国人が美しいと言ってくれた
ミュージアムに置いて帰れずいそいそと持って帰った君にあげようと思う
私は多分生きる
そんな芸術体感だった


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