内科医律 vol6
「困惑」
律が目を覚ますと、硝子窓から射し込んでくる光の向こうに愛美がまだ寝息を立てていた。毛布から少しだけのぞく愛美のすらりと伸びる脚が律の欲情を再燃させそうになったがそこはグッと飲み込んだ。どうやらお互い果てたまま眠ってしまったようだった。
昨夜は思いもよらない展開から愛美の自宅へ、そして酒に酔った愛美を介抱しながら逆にその愛美に求められ、その後何度も激しく互いを求め合った。
正直クリスマスイヴからの一連の出来事の中では愛美の後輩である瞳、そして初対面の当直医麗華と比べると愛美の存在感はそれほど大きいものではなかった。もちろん美人な上に仕事も出来、さらには知的な愛美に魅力を感じないわけではなかったのだが、あの日の瞳の言動、そして麗華のそれとない言葉やその後の行動など、あのメモ書きを書いた張本人と考えるには愛美は最も遠い存在であった。
だからこそ昨夜の出来事は想像だに出来ない事だったのだ。
まだ朝の6時半を回ったくらいの時間で愛美が起きるまではもう少しかかりそうだと感じた律はベッドの中でスマートフォンを眺めながら時間をやり過ごした。
やがて愛美が目を覚ます。
「おはよう・・・あ、おはようございます。。。」
愛美が少し恥じらいながら律からやや目を背けながら声を出す。
「おはよう、よく寝てたね?」
律が答える。
「昨日は急にごめんなさい。。。酔って先生に面倒をかけてしまって、それに。。。」
愛美はいつもの仕事モードの愛美に戻っていたが、このシチュエーションでのそれはより一層律の心を大きく震わせてもいた。
「ちょっとビックリしたけどな」
律はそう言いながら、その気持ちを必死に隠そうとしていた。
そして同時にあのメモ書きを書いたのが実は愛美であったというのを確認しようとした。
「愛実さん、こないだエレベーターの中で途中になってた話あったよね?」
律が言うと愛実は思い出したように
「来年のクリスマスの話でしたよね?それならこないだ少し話しましたよ、瞳ちゃんが来年はまたクリスマスイヴに律ちゃんも誘ってパーティーしようって?」
「あー、あの話がそれだったのか。。。」
律は笑いながら答えるが、愛実の返答が思っていたものと違った事に若干の困惑を隠せなかった。
そしてあのメモ書きについて愛実に問うにはこのタイミングしかないと思い切り出した。
「あのクリスマスイヴのパーティーのあと医局に戻ったら・・・」
一連の出来事を話すと愛美は驚きながらも冷静に話し始める。
「あのあとはわたしも瞳ちゃんも結構忙しくて・・・パーティ中もみんなずっとステーションにいたと思ったけど・・・」
「先生といまこんな風になってる中では言いにくいんだけど、それを書いて置いたのは私じゃないです。。。でも私・・・」
そこから先の言葉を愛美はグッと飲み込んだが律はそれを理解したと伝える代わりにもう一度だけ愛美を抱き寄せ、そしてキスをして終わらせることにした。
律も愛美も今日は出勤日だった。律は一足先に身支度を終えて愛美の家をあとにした。
「愛美さんではなく瞳も違う可能性があるとなると残るは。。。」
医局に着くが病院に近い愛美の部屋から出勤することになったのでまだ誰1人出勤はしていなかった。
律はそっと引き出しを開けてもう一度その目で確かめて見た。
「来年は二人でケーキが食べたいなぁ💕」
医局に貼られた来年1月までの当直表を見てみても、「彼女」の名前は見あたらかった。
to be continued
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