映画 「We Margiela マルジェラと私たち」 を観た。
はじめに
どうもぐっちです。夏に向けて新しい香水が欲しいと思う今日この頃です。シトラス系でいいのないかなー。皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
実は昨日、今夏初めてのエアコンをつけました。今までも暑いと思う日はあったんですが、リモコンの電池が切れていたんですねー。ようやく電池を買いに行ったわけです。
もう快適ったらありゃしない。湿度低いの本当に心地いいです。とか言いつつ、そのうちしたら夏の蒸し暑さを逆に欲してしまうのは僕の性格上目に見えてます。 何事もバランスと気分次第なんですよね。世の中の真理です。
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さて本題へ。今日は天気が悪いとの予報だったので一日中家にいました。午前中は課題やってたんですけど午後からは暇で、そこで久々のアマプラの出番です。
それで、ずっと観ようと思ってたマルジェラのドキュメンタリー映画、 「We Margiela マルジェラと私たち」を観たので、そのことについて書いていこうと思います。
マルタン・マルジェラについて
その前に、マルジェラに知らない方もいると思いますので、軽く説明を。
マルジェラとは、主に90年代~00年代に活躍したデザイナー、マルタン・マルジェラおよび彼の名を冠したブランド、メゾン マルタン・マルジェラのことです。他のブランドの華やかでゴージャスなデザインとは一線を画した、シンプルで少し薄汚い、脱構築的とも称される独自のスタイルによって、一世を風靡しました。
マルタン氏はメディアに出ないことで有名で、公式な彼の顔写真は一枚たりとも存在しません。そのことがブランドの謎めいたイメージに一役買っています。とは言えネットが発展した現代、調べれば彼の顔は出てきます笑。すごい時代ですよね、全く。
マルジェラで一番特徴的と言えるのはタグでしょう。マルジェラのタグはカレンダーを模したもので、タグの四隅を糸で軽く服に縫い付けただけのデザインがブランドアイコンとなっています。これを見れば一発でマルジェラだと分かるデザイン。
かなりの人気ブランドであり、足袋ブーツ、ドライバーズニット、八の字ライダース、エイズTシャツなどの定番品も多く存在します。財布やバッグ、香水も展開しており、特に香水はコンセプトが独特かつ明快で、愛用者が多いようです。原宿のアットコスメにもマルジェラの香水が置いてあって、とても驚いた記憶があります。よほどポピュラーでなければ、逆にブランドの価値を落としかねません。最近のマルジェラの人気を物語っているように思えました。
ちなみにマルタン氏は2008年にブランドを引退し、現在のデザイナーは2015年から、ジョン・ガリアーノ氏が務めています。それに伴い、ブランド名も現在のメゾンマルジェラに変更されました。
とまあ、事前に知っておいた方がいいのはこのくらいですね。これだけ知っていれば、とりあえず映画の内容は理解しやすいかと。まあ、服が好きな人はこれくらい当然知っていますよね?(煽り) ファオタあるあるの知識マウント、本当にクソです。
では肝心の、映画の内容に移りましょう。以下ネタバレを多大に含む、というかざっくりまとめて解説しちゃいます。ネタバレが嫌な人、読むのが面倒な人は感想だけ見ることをお勧めします。
ちなみに僕はこの映画を二回観てます。貧乏性なので笑。
ブランドの始まり
まず、マルジェラの始まりについて。
デザイナーのマルタン氏(以下マルタン)ばかりが注目されてきましたが、実は彼にはビジネスパートナーがいました。ジェニー・ローレンスという女性です。ジェニーはメゾン マルタンマルジェラの共同設立者であり、チームマルジェラにも欠かせない存在でした。大黒柱であり、母のような存在だったと語られています。
彼女は若き日のマルタンの非凡な才能を見抜き、ファッション業界の常識を壊すために2人はタッグを組みます。これがすべての始まりです。
デザインを担うマルタン、ブランディングや経営を指揮するジェニー。2人の才能に惹かれ、有能で熱意あるスタッフたちが集まり、メゾン マルタンマルジェラがスタートしました。当時のスタッフの写真です。
ブランドアイコンとも言える、四つタグの誕生秘話も明かされます。
実は、ブランド名のないタグをつけるのはジェニーのアイディアだったようです(今はカレンダーデザインですが、当時は本当の無地でした)。ブティックに名前の無い服が置いてあったらインパクトがあって面白いと考えたジェニーですが、マルタンには渋られました。曰く、「僕の名前がないと両親が悲しむ」と。
最終的に同意したマルタンでしたが、その条件として、タグの止め方にこだわることで、一発で自分のブランドと認識できることを提案しました。
巷では「服の本質を見て欲しいというマルタンの想いから、いつでも外せるようにしている」と言われてきましたがそれは後付けで、マルタンはむしろブランドにこだわりを持っていたことがわかります。
またこの匿名性とも言える発想は、ブランドの象徴として様々なアイテムのデザインにも反映されています。例えば、何も彫られていないシグネットリングなどですね。これも恐らくは、ジェニーによるマルジェラとしてのブランディングの一環でしょう。ここからもジェニーの存在の大きさが窺えますね。
順調なスタート
パートナーや優秀なスタッフに恵まれ、マルジェラは初めてのショーを行います。下はルック写真です。
1989年のファーストコレクションで、狙い通りファッション業界に衝撃を与えることに成功しました。ちなみに足袋ブーツはこの時からあったようです。
続く1990年のコレクションでは、「リアルな場で服を発表したい」とのマルタンの想いから、空き地でのショーを開催。やはり大きな反響がありました。このショーは、観客の1人の少年に大きな衝撃を与え、彼はのちにファッションの歴史に名を刻む偉大な人物となりました。ジルサンダー ディオール など名だたるブランドを手掛けた、ラフシモンズその人です。
1994年には、「服をはじめに見るのは顧客であるべき」との思いからショーを行わず、代わりに店頭でコレクションを展示するという試みも行われました。この取り組みでマスコミとの関係が悪化、マルタンは次第にマスコミと関わりを持たなくなり、マルジェラのミステリアスなイメージが形成されていきました。
トレンドは完全無視、古着のような薄汚い服、個性的な顔立ちの華のないモデル、顔を覆い隠す演出、ショーの観客は先着順。マルジェラはすべてが革新的でした。安いものを使ってお洒落に変えるマルタンの才能、ジェニーの巧みなブランディングと経営、献身的なスタッフ達によって、ブランドは資金難にもかかわらず、常に前進することができました。
また、マルジェラの示した「新しい美」の概念は、いつでも美しくはいられないリアルな女性像とマッチしていました。「妊娠、子育て中だから」、「美人ではないから」とファッションと距離を置いていた女性たちを勇気づけ、自信を与えるという大きな功績を果たしたようです。
大きくなっていく組織
マルジェラの人気はどんどん高まり、組織もどんどん大きくなります。すると徐々に不都合が。
自らの思う美を追求し、それに即したデザインしかやりたがらないマルタン。その裏で、ブランドの運営のために厳しい資金繰りをし、いわばマルタンの尻拭いをしているジェニーの負担もどんどん増えていきました。デザインチームの人々も、メディアへのメッセージや展示会用のデザイン制作など、多忙なマルタンに変わって行っていました。
マルタンありきのマルジェラではデザインチームが個性を発揮できる場はなく、常にマルタンの望むものを考え作り、クリエイティブであるべき決断もみんなで決めるという矛盾。
この頃からブランドは、「We」を使うようになります。ここには皆で制作しているという前向きな意味もありますが、同時に責任の所在を曖昧にするためという暗い事情もありました。
徐々に、組織としての限界が近づいてきます。
両輪の喪失、ブランドの崩壊
はじめに限界を迎えたのはジェニーでした。プレッシャーと責任感からの孤独に耐えきれず、母親の死も重なったことで、会社の売却を決め、経営から退きます。
会社を売ったお金は、トップであるマルタンとジェニーの元に。これがマルタンにとっても決定的な出来事だったようです。ずっと最低賃金で働き、私生活を全て犠牲にしてきたマルタンは、莫大な金額を目にして初めて自分の仕事の価値を知ったのかもしれません。
そして、会社が売却された以上、上からの指示にある程度従わなければなりません。売り上げを意識し、以前より美しいモデルの女性が増え、わかりやすいデザインも多くなりました。
自分を支えてくれるジェニーもいなくなり、自由にデザインできなくなったマルタンは、徐々に情熱を失っていきます。
そして2008年、ショーの最中にマルタンは失踪、以後表舞台から姿を消したままです。
こうしてブランドは、マルタンとジェニーという両輪を失いました。
最後、ジェニーの語りと苦しげな呼吸音、2017年にジェニーが逝去したことを伝える字幕で映画は締め括られました。
その後、残されたデザインチームは以降もマルジェラとして活動を続けました。そして2015年に、ジョン・ガリアーノがクリエイティブディレクターに就任、現在に至ります。
感想、考察
※公開後、感想を多少手直ししました。だいぶ変わっています。ご了承ください。
この映画には、マルタン本人は一切登場しません。ジェニーも声だけの出演でした。ですからマルタンがどういう人物であったかは、断片的な語りから推測するしかありません。そこに解釈の余地が生まれるのが面白いとも言えます。
そしてこの映画のおかげで、マルタン本人とチームマルジェラを切り離して考えることができるようになりました。これは非常に大きいです。てか、ほんと思い切ったドキュメンタリーです。組織は一貫していないとブランディングもクソもないので。かっこよくあるべきブランドが丸裸にされるわけですからね。マルジェラだから成立したドキュメンタリーと言えます。
マルタンマルジェラというデザイナーについて
おそらくマルタンは、非常にシンプルな天才デザイナーです。彼の作品にそこまで深い意図はなく、ただ己の美しいと思うものを追求していただけではないかと。彼の場合、それは日常の中の何気ない瞬間にありました。着飾った虚構のファッションより、リアルで素朴なファッションが、彼には力強く、美しく感じられたのだと思います。
マルタン個人の美のセンスを一般に理解させるために、作品の後からコンセプチュアルなメッセージを取ってつけたのがマルジェラの正体ではないかと思います。コンセプトをもとに服を作るのではなく、出来たものに意味を後付けしていったのが本当のところでしょう。
足袋ブーツが生まれたエピソードがありましたが、驚くべきものでした。特徴的な丸いヒールは、シリンダー(工業部品)をとって付けただけだったみたいです。マルタンは多分そういう人なんですよ。バカバカしいほどくらいシンプルな天才ってだけなんです笑。センスの塊です。マルタンがシンプルすぎる天才だから、ただの狂人と思われて無視されてしまうことを危惧し、コンセプチュアルな要素、哲学的なメッセージ性を高めることにしたのではないかと思います。
マルジェラという組織の問題について
組織マルジェラの機能は二つ。
一つは、マルタンの望むものを作る。もう一つは、マルタンの作ったものにブランドの世界観を載せる。
繰り返しますが、コンセプチュアルな世界観は後付けであり、演出です。
マルタンマルジェラは、コンセプチュアルとは真逆のブランドでした。
例えばギャルソンはコンセプチュアルなブランドです。だから、他のデザイナーを起用して、ラインを増やすことができます。川久保玲さんが引退しても、ブランドのコンセプトを引き継ぐことで、ブランドは続いていくことができます。
ですが、マルジェラはどうでしょうか。マルタンの望むものはマルタンにしかわかりません。他の人物にマルタンの世界観を表現することはできません。
大きいブランドにも、続いていくブランドにもなれない存在だったのです。事実、マルタンは多忙を極め、ジェニーは責任に疲れ、デザインチームは個性を表現する機会がなかったと語られています。
そしてマルタンが去ったことで、ブランドにはマルタンの生み出してき傑作と演出してきた世界観が残されました。皮肉なことに、マルジェラはこの時にコンセプチュアルなブランドになりました。ブランドの築き上げてきた世界観に基づいて、新たな服を生み出す作業を続けました。
マルジェラの世界観は単なる後付けで、言い方は悪いですが薄っぺらなものです。それを保守的に守る意味はあるのか。事実、デザインの焼き直しだという批判もありました。
なぜマルジェラが評価され、愛されたのか。それは、革新的で新しい美の形を示したからです。今までのファッション業界が手を差し伸べなかった人々にその手を差し伸べ、勇気づけたからです。
ガリアーノの就任は、ブランドにとってある種復活の意味があります。かつてのマルジェラのデザインではなくなり、終わったと表現する人もいます。ですが別の見方をすれば、ガリアーノのデザインにブランドの世界観を後付けするというやり方は、マルタンがいたマルジェラのやり方と同じではないでしょうか。
マルジェラは後付けに過ぎない世界観を守るより、人々に愛されるアバンギャルドであることが重要だと判断したのでしょう。僕にはかっこよく思えました。
映画のタイトル、We Margielaの邦題は、マルジェラと私たちです。
私たちとは誰のことでしょうか。いろいろ考えられますが、チームマルジェラの人々だとも考えられます。マルタンとチームマルジェラは一体ではありませんでした。それがマルジェラという組織の特徴です。
ブランド名を変更したのにも、ここに理由がある気がします。マルタンとチームという関係性が崩れ、現在はガリアーノとチームという関係に変化しました。ある意味元通りです。マルタンの名を抜いたのは、初代のマルタンがもういないことを表すと同時に、それでもマルジェラという組織、掲げたコンセプトは、その時代のもっとも革新的なデザイナーとともに存在し続けるというメッセージではないでしょうか。
上手く伝わるかはわからないけど、僕の感想はこんな感じです。
この映画を見るまで、僕はマルジェラをミステリアスでめんどくさい服だと思っていました。映画を見てわかったのは、マルジェラはシンプル過ぎてめんどくさい服です。でも、マルジェラの服は、一番自由で好き勝手に着ていい服だと思いました。モードっぽく着ても、ストリートっぽく着ても、マルジェラっぽく着ても。おしゃれじゃない人が着ても、イケメンが着ても、どんな人種の人が着ても。着る人が自由でいられればそれでいいと思えました。
終わりに
馬鹿みたいに長い記事になりましたが、いかがでしたでしょうか。これを読んで、皆さんのマルジェラに感じていた謎めいたイメージに少しでもメスを入れられたら幸いです。また、映画を観てみようとか、マルジェラの服を見てみよう、着てみようと思っていただけたら、それも嬉しい限りです。
あ、ちなみに僕はマルジェラを一度も買ったことがありません!笑。
「いやお前、こんな語っといてマルジェラ買ったことないんかい!なんやねん!」って。すみませんね。だってマルジェラ高いんですもーん笑。
とまあ、こんな感じでファッションについてのあれこれ、具体的な着こなし方法や哲学的内容、雑記的な内容まで、いろんなことを発信していますので、他の記事も目を通していただけると嬉しいです。
ではまた!
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