セックスキャンセラー鈴木
その夜、二人は久しぶりの旅行に出かけていた。秋の冷たい風を避けるように選んだのは、静かな山間にある小さな温泉旅館。周囲には自然の香りが漂い、窓から見える夜空には無数の星が瞬いていた。
部屋に入ると、ふわりとい草の香りが漂い、心地よく広がる畳の上にふたりで腰を下ろし、一息つく。広めの和室には、柔らかな明かりだけが灯っている。彼は浴衣の襟を少し直しながら彼女に向かって微笑んだ。
「温泉、気持ちよかったね。」
「うん、こんなにゆっくりできたの、久しぶりかも。」
二人は湯上がりの熱で頬を赤く染め、心地よい疲労感に包まれていた。ふと沈黙が訪れる。けれど、その沈黙は心地よいもので、無理に言葉を繋ぐ必要はなかった。
彼は、彼女が旅館の窓辺に歩いていく様子を眺めながら、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。浴衣の裾を少し持ち上げる仕草や、湯上がりの湿った髪が月明かりに照らされて光っている姿が、なんとも愛おしく見えたのだ。
「外、星がすごく綺麗だよ。」
彼女の言葉に、彼もそっと立ち上がって彼女の隣に並ぶ。窓を開けると、冷たい夜風が吹き込み、二人の浴衣をふわりと揺らした。
「こんなに星が見えるなんて、なかなかないよな。」
「うん……。こうして一緒に見られてよかった。」
彼女がぽつりとつぶやいたその言葉に、彼の心が静かに震えた。
「俺も……。」
気がつけば、彼の手は彼女の肩にそっと触れていた。彼女は驚くこともなく、自然にその手に寄り添うように身体を傾ける。彼はそのまま、彼女の髪に顔を埋め、ほのかに香るシャンプーの香りに酔いしれた。
「……好きだよ。」
彼の囁きが耳元で響くと、彼女は小さく微笑んだまま目を閉じた。
「私も……。」
その一言が、二人の間に漂っていたわずかな距離を埋めた。彼はゆっくりと彼女の肩に手を回し、その温もりを確かめるようにしっかりと抱きしめる。彼女も彼の胸に顔を埋め、互いの鼓動を感じながら、静かな幸福感に包まれていた。
しばらくそうして寄り添っていた二人だったが、彼女がふと彼の目を見上げた。月明かりの下、その視線は何かを求めるように優しく揺れている。
「……そろそろ、布団敷こうか?」
彼の言葉に、彼女は微笑みながら小さく頷く。
二人は無言のまま布団を並べ、灯りを少しだけ落とした。部屋の中に漂う静けさと、二人だけの空間。彼は、そっと彼女の手を取り、布団の端に座る。
「寒くない?」
「うん、大丈夫。」
言葉は少ないけれど、互いの瞳の中に映る気持ちはすべて伝わっていた。彼はゆっくりと彼女の頬に手を添え、ためらいがちに唇を重ねる。柔らかな感触と、わずかに触れる彼女の呼吸が、胸の奥に優しい炎を灯す。
彼女もそっと彼の背中に手を回し、その温もりを確かめるように身体を預けた。二人の間に言葉はいらなかった。ただ、互いの心の声が静かに響き合い、自然と唇を重ね合う。
「好きだよ……。」
彼女の囁きに、彼は小さく微笑んで応えた。
「俺も、ずっと。」
そのまま、二人は布団の中へと滑り込む。外では秋風がそっと木々を揺らし、遠くで虫の声が微かに聞こえる。けれど、今この瞬間、二人の世界には温もりと静寂だけがあった。
そのとき─────
「セックスしたらおえんよ?」
微かに、何者かの声が聞こえた。
彼女が驚いたように顔を上げ、彼も一瞬息を止める。二人は互いに目を見合わせた。声は確かに、部屋の外──障子の向こう側から聞こえたように思えた。
「……今、誰かの声が聞こえた?」
「うん……聞こえたよね。」
彼は静かに布団から抜け出し、薄暗い部屋を見回した。窓の外は月明かりに照らされ、旅館の庭がぼんやりと浮かび上がっている。だが、障子の向こう側にも、廊下にも、人の気配はない。
彼女も不安そうに身体を起こし、周囲を見渡したが、どこにも誰もいなかった。
「誰もいない……聞き間違いかな。」
彼は首をかしげながら、もう一度周囲を確認したが、何も異常は見つからなかった。
「……ただの空耳かもね。」
彼女は少し安心したように微笑み、彼の手を引いて布団に戻るよう促した。
彼は小さく頷き、再び彼女の隣に滑り込む。冷えた空気が布団の中の温もりをより際立たせ、二人は自然と再び互いを求めるように身を寄せ合った。
「あなたがいれば……何も怖くない。」
彼女の言葉に、彼は優しく彼女の背を撫でながら囁く。
「俺も、君がいればそれでいい。」
布団の中は、ほんのりと彼と彼女の体温で温められていく。触れ合った肌の感触が、静かに二人の心を満たしていった。彼女の手はそっと彼の胸元に触れ、その鼓動を確かめるように指先を滑らせる。
「なんだか、まだ信じられない……」
彼女はかすかな声で呟いた。
「何が?」
彼が優しく尋ねると、彼女は小さく笑みを浮かべながら答える。
「こうやって、一緒にいること……もう、こんな夜は来ないかもしれないって思ってたから。」
彼はその言葉に、少し寂しげな表情を浮かべた。これまでの日々のすれ違い、思い出の断片が頭をかすめる。けれど、それでも今、彼女は自分の腕の中にいる──その事実が、胸の奥をじんと熱くさせた。
「俺も……でも、こうして君がそばにいてくれる。それが何より嬉しいよ。」
彼はそっと彼女の髪に触れ、その柔らかな感触を確かめるように撫でた。彼女はその手に身を委ね、まるで夢の中にいるようにまどろむ。
「温かい……」
彼女がぽつりとつぶやき、少しだけ彼に身体を寄せた。その動きに、彼の胸が少し早く鼓動を打つのを感じる。
彼は、彼女の手をそっと取り、その指先に軽く口づけを落とした。その小さな行為にさえ、二人の間にある微かな緊張が心地よく満ちていく。
「ねえ……もっと近くに来て。」
彼女が小さく囁くと、彼はためらいなく布団の中で彼女を抱き寄せた。お互いの身体がぴたりと重なり合い、湯上がりの温もりが一つになる。彼女の呼吸が彼の耳元で微かに響き、そのたびに二人の心が静かに震えた。
彼はそっと彼女の顔を見つめ、瞳の中に浮かぶ優しい光に引き込まれていく。もう、言葉は必要なかった。ただ互いを感じ、寄り添うことで、心の中にあるすべてが伝わっていた──そのときだった。
「セックスしたらおえんよ?」
今度は確かに聞こえた。
「その声は…セックスキャンセラー鈴木!?!?」
彼が驚いたように名前を口にする。声の主──セックスキャンセラー鈴木は、セックスを阻止したい人々の思いが生み出した思念体だった。
「もう無理っぽいな…」
「ほんと残念。せっかくいい感じだったのに。」
二人は甘い時間があっけなく壊れたことに深く落胆する。
二人が諦めるのも当然、セックスキャンセラー鈴木に見つかったら最後、セックスをやめるまで「セックスしたらおえんよ?」と阻まれ続けるのだ。
「まあ、こんな夜もあるさ。」
そう言いながら、彼は彼女を優しく抱き寄せた。
セックスキャンセルされたことは残念だったが、それでも彼らは、こうして二人で寄り添えるだけで十分だった。
「今日はもう寝よう。でも、また次の機会があるだろ?」
彼が冗談めかして言うと、彼女もくすっと笑って答えた。
「次こそは、絶対に邪魔されないところでね。」
この物語をここまで読んでいるあなたへ。
セックスあるところにセックスキャンセラー鈴木あり。今回は物語の中で二人の時間を邪魔しましたが、次は、あなたのセックスをキャンセルしにやってくるかもしれません。
静かな夜、二人きりの甘い時間を過ごしているとき。
ふと、部屋の外から誰かの声が聞こえたら……。
そのときは、きっと─────
「セックスしたらおえんよ?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー著者
恋愛関係の描写 : チャットGPT
セクおえ関係の描写 : 愚2
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体、及び他作品に登場するキャラクターとは一切関係ありません。
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