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大阪の風土:自治都市としての堺&富田林
■自治都市「堺」
今の堺は、かつての自治都市で東欧のベネチアともいわれた昔の面影は全くありません。
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*何度も戦火に遭ってきた堺の悲運
というのも何度も時の権力に壊滅させられ、そして米軍の空襲で焼け野原になったから。それでも今も政令都市として、その立ち位置を確保。旧堺市街を貫く通りは日本の道100選に選ばれた「フェニックス通り」。地元の方によると、堺は何度も戦火に遭いながら復活してきた不死鳥の街の象徴としてフェニックス=不死鳥と名付けられたとのこと[公式にはフェニックス(カナリーヤシ)が植栽された通りだから]。
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戦前の古い建物は一部残存するものの、由緒ある南宗寺(千利休が修行した寺)や妙国寺(本能寺の変の時に徳川家康が滞在していた寺)ふくめ、みんな戦後の建物と思われます。
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街の区画も戦後の区画整理で、広い道が碁盤の目のように整然と敷かれており、「本当にここが世界に名を馳せた港町なのか」とガッカリしてしまいます(地元の方には申し訳ありません)。
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それでも世界遺産となった近隣の百舌鳥古墳群と合わせて観光に力を入れているようで、6年前にオープンした「さかい利晶の杜」を訪れれば、往時の堺の様子を何とか再現しようと、VRゴーグルをつけてヴァーチャルで安土桃山時代の堺を体験させたり、堺出身の歌舞伎役者片岡愛之助が扮した利休の解説による、各種最新の技術を取り入れた展示が体験できます。
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また二つの千利休の茶室「さかい待庵」「無一庵」を完全復元させ、別途料金必要ですが、ヴァーチャルだけでなく、リアルな世界でも体験できるよう工夫がされています。
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*世界に冠たる自転車の街
堺には鉄砲鍛冶の技術の流れで自転車部品の世界最大手「シマノ」があります。本社にも行ってみましたが、超優良企業ということもあり、周りの工場とは異なる、お金のかかっていそうな工場。
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自転車博物館なるものが大仙古墳の公園内にありますが、シマノが運営しているだけあって、イタリアのトップブランド、カンパニョーロや同じ堺のかつてのライバル企業サンツアーブランドの「マエダ工業」等、他社製品は一切展示しないなど、シマノという企業の徹底ぶりというか、その社風を垣間見られる博物館になっています。一方で世界初の自転車や
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世界初のマウンテンバイクの実車
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も展示されているなど、自転車好きにとっては必見の博物館ではあります(現在閉館→2022年春:新館に移転予定)。
ただ、堺市内が自転車の街かどうか、というとほかの街と大差ありません。オランダなどのヨーロッパのように自転車専用道が整備されていればいいのですが、あまりそっちの方には行政は目が行っていないように感じます。大阪の街は大概、関東と違って自転車道が多いのはいいのですが、歩道とセットになっているので歩行者に迷惑なつくりの部分が多い。堺だけはヨーロッパをを見習って歩道や自動車道と分離した自転車専用道をつくればいいのにと思います。
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*貿易港としての堺港の衰退
江戸時代に淀川に流れ込んでいた大和川を洪水対策のために放水路をつくって大阪湾に流れ込むようにした影響(1701年大和川付け替え)で、川からの土砂が堺港に流れ込んでしまって港としての機能は低下。
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代わりにアナゴが多く生息することになり、アナゴ漁が盛んになります。
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*閑静なベッドタウンとしての現代の堺
そして近代以降は南海電鉄の開発もあってか、浜寺公園や百舌鳥古墳群のあたりは閑静な住宅街となっており、
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作家の山崎豊子邸宅はじめ、敷地面積の大きい高級住宅が立ち並んでいました。地元の方によると、特に古墳周りは絶対再開発がないエリアなので未来永劫、安心して静かな環境で暮らせる、という。確かのその通りです。
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■じないまち「富田林」
*巨大なPL教の塔「平和祈念堂」
富田林は、PL学園で有名なPL教の本拠地で、堺方面から自転車で向かうと丘陵の上に巨大なPL教の塔「大平和祈念塔」が忽然と現れます。
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まるでガウディのような有機的なデザインが印象的で、ちょっと関東人からすると考えられない構築物です。これは必見。
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*旧市街「寺内町」
そしてPL教の丘陵を下った先にある旧市街「寺内町」は、石川の河岸段丘の上に集積した、まるで中世ヨーロッパのような防御態勢万全の立地。
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現在、朝ドラで放映中の「カムカムディエブリバディ」ですが、富田林でも撮影しているとのことで、たぶん「雉真家」は、明らかに「旧杉山家」の玄関。調べたらその通りでした。
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。やはり気になるのは、港でも何らかの産地でもないのに、なんでここになぜ富の集積ができたか、ということ。旧杉山家のボランティアガイドによると、お坊さんの勧めによって南河内に住んでいた大地主達を一堂に集めて寺内町を作ったかららしい。
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なかでもトップ8の大地主「八人衆」は、一向宗の寺内町として自治権を確保していた一方、一向宗本願寺勢力が信長に敗退すると一転して信長方に味方したことで信長から保護され、唯一大阪の寺内町として残存。
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富田林は、宗教の勢力よりも大地主の勢力の方が強かったために、本願寺から容易に信長に切り替えられたから(大阪のトリセツ100頁)。
日本が共産主義化しないよう、米国占領軍による戦後の農地改革で地主の土地はみな小作農に格安で分配されたので、今では8人衆もすっかりただの人だとは思いますが、街並みだけはきちんと保全され、寺内町にある建物600棟のうち200棟はあまりが江戸時代から明治時代にかけての建物で、大阪府唯一の重要伝統的建造物補保存地区に指定されています。
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そして堺のフェニックス通り同様、こちらも日本の道百選。
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以上、大坂の風土を何回かに分けて紹介しましたが、大阪府は実は見どころ満載。2週間ほど滞在しましたが全く飽きのこない魅力的な土地柄でした。お世話になった地元の方にも感謝です。
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