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「モロッコの風土」モロッコのイスラーム事情
モロッコの3つのタブー「アッラー」「マタン」「マリク」のうち今回は「アッラー」つまりイスラーム教について、旅行して感じたモロッコのイスラーム事情を紹介。
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モロッコ人は、もともとベルベル人という先住民が半分、7世紀末から移民してきたアラブ人が半分という人口構成。ベルベル人・アラブ人に関わらず、大半がイスラーム教徒スンニ派で、国王のムハンマド六世はイスラームの守護者という意味で信徒たちの長「アミール・アル=ムーミニーン」という称号も持っています。
歴史的にはユダヤ教徒(ユダヤ人)もモロッコに数十万人規模で住んでいましたが、その理由はイベリア半島のイスラーム化によってスペインに多く住んでいたユダヤ人が、スペイン王(フェルディナンド王&イザベラ)発令のユダヤ人追放令(1492年)によって、多くのユダヤ人がモロッコに避難してきたから
イスラーム世界は、ユダヤ教徒含む異教徒を課税(ズィンミー)することで受容していたため、イベリア半島のように、その土地がキリスト教世界からイスラーム世界になるとユダヤ人が多く住めるようになった。
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その後、1948年イスラエル建国に伴って多くがイスラエルに移住し、今は少数のユダヤ人(ユダヤ教徒)が残っているのみ(中世欧州とユダヤ人については以下参照)。
⒈ジェンダーについて
⑴女性がヒジャブ(ヴェール)を被っている割合
モロッコでは女性の90%程度はヒジャブを被っているという印象。ただし都会ではヒジャブを被っていない若い女性も多く見受けられ、他のアラブ諸国と比べると比較的ゆるい感じ。
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一方で地方都市・農村に関してはヒジャブを被っていない女性はほとんど見かけません。厳格な湾岸諸国とトルコの中間ぐらいのゆるさ加減というイメージ。
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一般にイスラーム世界では女性の社会的地位が低く、モロッコでは2004年の家族法改正によって20年前にはじめて女性は後見人を介してではなく、自らの意思で婚姻契約を結ぶことができるようになりました。
さらに男性にしか与えられていなかった離婚の申し立てが女性からもできるようになるなど、ちょっと日本の感覚では考えられないような女性の地位の低さなのです(『モロッコを知るための65章』209頁)。
実はイスラーム専門家によれば、女性の地位はイスラームの事情で地位が低いのではなく、男性の宗教的権威者や伝統的習慣の中で女性の地位が低められたというのが最近の研究でも明らかになりつつあります(モロッコ人社会学者「ファティマ・メルニーシー」や以下著作など)。
本来イスラーム教では「神の前に人間は平等である」ということだから、男も女も関係なく平等なのは、いうまでもありません。
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⑵女性の隔離
モロッコでは、大人の男性だけがカフェで(砂糖をたっぷり入れた)ミントティーを飲んでいる姿をよく見かけます。イスラーム国家では、どこに行っても男性だけでカフェで仲良くだべっているのをよく見かけます。
ではこの中に女性はいないのか、と言ったらいないのです。
ヒジャブを被って歩いている女性はよく見かけますが、男性のように茶館でだべっているのはあまり見かけませんでした。
女性はやはり家事で忙しいのか、男のようにカフェでだべっている余裕がないのかもしれません。モロッコ人にとって男性が家事をするのは、あまり事例がないらしい。
つまり家事はほとんど女性の仕事なので、暇に任せて男性はカフェでハーブティー飲んで、だべっているということか。
JETROによるとモロッコのモロッコの女性就業率は23%と低く、まだまだ男は仕事、家庭は女性的習慣が色濃く残存しているということでしょう。
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⒉モロッコの飲酒事情
イスラーム国家なので、法律上においても、路上や電車の中など公の場での飲酒は禁止(外国人も同じ)。ただしレストラン等での飲酒は可能。
ところが今回ツアーに参加してみて約7割くらいのホテル・レストランでは外国人であっても飲酒はできませんでした。外国人のツアーでさえ、このレベルなので、モロッコ人自身は少なくとも人目のある場所ではアルコールは口にしないのでしょう。
一方で、興味深いのはモロッコ自身はアルコール生産国。ワイン用の葡萄畑もあってワイナリーもあるし、モロッコ産のビールもあります。
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ワイナリーに関しては、旧フランス植民地だったことも影響してフランスの農民が入植して葡萄畑とワイナリーを経営していたその名残らしい。そして経営をモロッコの富裕層が受け継ぎ、主にヨーロッパに向けて輸出しているのでしょう。
いずれにしろ、アルコールはイスラームにとっては忌避すべき飲料なんで、隠れて飲むモロッコ人もいるでしょうが、あくまで誰にもみられない、あるいは仲間内だけでの限定された場合のみ、ということではないかと思います。
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⒊モロッコに豚肉はあったのか
アルコールにはだいぶゆるかったイスラーム国家トルコでさえ「豚肉だけは絶対食べない」という感じでしたが、モロッコでも同じで、豚肉は相当にイスラームにとって忌避すべき穢れの存在でした。
豚肉はいわば、彼らにとって汚物を食べるような感覚らしい。
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以上、モロッコは、イスラーム的には湾岸諸国ほど厳格ではないものの、トルコほどはゆるくない、といった印象でした。
*写真
中世イスラーム教学(「マドラサ」という)の拠点だった「カラウィーイーン大学」(859年設立)。世界に現存する最古の継続的に活動している教育機関。