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地域をまわって考えたこと 小熊英二著 書評

<概要>
移住希望者向けの雑誌において、著者が実際に地域・地方に行って移住者や地域活性化のキーパーソンに直接会って取材した記録エッセイ。東京高島平団地から群馬県南牧村まで、人口が減っている六つの地域の地域ごとの特徴を簡潔に整理し、地域移住とは?地域とは?を問う著作。

<コメント>
小熊さんの「日本社会のしくみ」を読んで、彼に興味を持って読んだ著作ですが、内容的には日本のしくみと違った浅い内容で、さらっと読めてしまう著作。

これをきっかけに本格的な地域分析みたいなものに取り組んでいただけると面白いのではと思いますが。。。

さて本題。都市含め、人口減少地域を社会学者山下祐介の考えに基づいて分類すると以下の5つに分類されるという。

①村落型:江戸時代までに成立していた農漁村集落
地方の一番メジャーな型ですが、一次産業人口が減少し、高齢者が50%以上という超高齢化地域。

②開拓村型:戦後に満州その他から引き揚げてきた人々が条件の良くない土地を開拓した集落
秋田県大潟村や北海道の根釧パイロットファームなど、大規模農地や牧場地が多いらしい。

③伝統的町:ある時代の技術や交通のあり方のために人が集まった地域
姫路などの城下町、長野などの門前町、宇都宮などの宿場町、物流が水運がメインだった名残である北前船で栄えた日本海沿岸各集落、白蝋で栄えた愛媛県内子町などなどか。

特に明治時代以降、物流が水運から陸運(鉄道&車)に大きく転換するなど、交通や技術のあり方が変わって産業の中心から取り残されてしまう地域。

④近代的産業都市:近代化のある段階に栄えた地域。鉱業・林業・背に繊維産業や鉄鋼産業。石炭から石油へのエネルギー政策転換、1985年のプラザ合意後の円高および1989年以降のバブル崩壊によって、炭鉱や工場は軒並み海外シフトまたは閉山・閉鎖して衰退。

⑤開発の早い郊外住宅地:1960年代から70年代に入居が集中した大都市近郊地域。
戦後の都市への人口流入にあわせて郊外に大規模ニュータウンが造成。多摩ニュータウン・泉北ニュータウンや本書で取り上げられた高島平団地などは、世代交代進まず超高齢化団地に変容。

以上著者によると、人口が減っている地域とは「かつては人が集まる必要性のあった地域」であり「今は人が集まる必要がなくなった地域」

特に戦後から1960年代までは、貿易が自由にできず、自給自足型経済を強いられたために、農林水産業や鉱業・工業はもちろん観光業でさえも活性化し、一時的に上記人口減少地域の発展を促したという。しかしプラザ合意によって農林水産業の輸入は増加し、工場は海外シフトして、更にバブル崩壊による公共事業削減によって人口減少が決定的になった。

したがって、上記人口減少地域の衰退は構造的なものでこの傾向は今後の継続するでしょうが著者によれば、今後地域振興にとって大切なのは「他から必要とされる地域」「持続可能で人権が守られる地域」。

特に上記①②に該当する過疎地の住民に関しては

「困ったことは何もなく現状で満足している」

ということ。確かに「日本社会のしくみ」でいう「地元型」は、持ち家があって地域の繋がりがあって年金などの一定の収入もあるので困っていないのは理解できます。

なんで、(⑤の郊外型ニュータウンを除く)地方に関しては

「いかに現状維持していくか」が最も大事で、「他から必要な地域」になるよう、将来も持続可能な新しいコンセプトの観光や農林業などの産業を育てていく

のが、当面の人口減少地域の課題ということです。

*なお、移住が成功するためには「その地域で必要とされるノウハウを移住者が持っているかどうか」が重要で、必要とされれば地域社会に長く定住ができるとし、地域社会の各種活動(祭りや消防隊など)に参画するのは「当たり前」という感じでした。

*写真:愛媛県 内子町

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