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「モロッコの風土」アフリカNo.1の経済


⒈アフリカ ナンバーワンの経済

モロッコ経済は、実質アフリカナンバーワンとも思われ、優秀な王様による安定した先制政治体制と治安によって順調に経済発展してきたともいえます。

実際に今回旅行してみると、私のアフリカ経験上(コートジボワール、南アフリカ、ボツワナ、エジプトなど)からしても、南アフリカ(南ア)と同等か、それ以上の近代的国家という印象。

カサブランカ(2024年11月撮影。以下同様)

団体ツアーなのでスラム街周辺には行けませんでしたが、カサブランカのスラム街といわれるモウレイ・ラシッド地区のGoogleマップみる限り、南アほど大規模ではありません。

特に南アとの比較では、各種インフラは南アの方が整っているものの、世界有数の治安の悪い南アとは真逆の治安の良さで、しかもモロッコの方がよりヨーロッパに圧倒的に近いことも経済発展に寄与していると思われます。

フェズの新市街

アフリカでは一般に一人当たりGDPの高い国は、観光メインの小国(セーシェル、モーリシャス)か、資源国(赤道ギニア、ボツワナ、リビアなど多数)のどちらかですが、資源に頼らず実業を伴ったそれなりの規模の国家という枠組みではモロッコ(人口3,700万人)がアフリカナンバーワン。

映画「カサブランカ」をイメージした現地のカフェ

⒉農林水産業

日本もかつては農業国でしたが(というか近代以前はすべての国が農業国)、今は農業就業者(副業者除く)は111万人(2024年)と全就業者数6,800万人のわずか1.6%。

ところがモロッコは同46%と隣のアルジェリア21%と比較しても相当に農業就業者の多い国家。農業就業者数の世界平均が23なので、ある意味農業にシフトした国家。とはいえGDPに占める農業の割合は13%でそれほどではない。

「注目集めるモロッコの経済を分解してみた」住友商事資料より

このあたりは地中海性気候という豊潤な土地と大消費地であるヨーロッパに近いという地理的特性によるものではないかと思います。

モロッコの農業は、モロッコ人による「伝統的農業」と侵略国家フランスがもたらした「近代的農業」に大きく分かれます。

カサブランカ近郊の畑

①伝統的農業

伝統的農業は農民の60%以上が10ヘクタール以下の小さな農地を家畜などを使って小麦・とうもろこしなどを栽培。

アトラス山脈の南に広がる乾燥地帯には「カッターラ」と呼ばれる灌漑用水路があります。アトラス山脈山麓から雪解け水が標高の低い方へと地下の灌漑用水路に流れ、そこから水を供給して作物や放牧の生業を営んでいます。

中に入ると、今は水は流れていないものの、人間の手で掘られた地下用水路を見学することができます。

作物としてはナツメヤシが中心で、ナツメヤシから実を取って乾燥させて食べたり(デーツという)、アルコール醗酵させてお酒としても飲まれます(イスラーム国家ではあるものの)。

トドラ渓谷に至るオアシスのナツメヤシ畑

アトラス山脈より北にある地中海側では、主に冬小麦やとうもろこしを栽培しつつ、羊などを家畜として飼育。

リーフ山脈のあたり

②近代的農業

一方の近代的農業は、モロッコが1956年独立後、モロッコ国家が徐々に接収し完了したのが1973年。この間フランス人の保有する大規模農地はモロッコ人富裕層に売却され、彼らが農業主として20~100ヘクタール規模の大農場を経営。

フェズ→シャウエンに移動中にみた大規模農場

近代的農業では換金性が高くて輸出向けのオレンジ、トマト、じゃがいも、ワインなどの原料としての果実、野菜などを生産。

同じく、オレンジ畑

このように農業国であるがゆえに、モロッコ経済全体が気候に左右されることも多く、降雨に恵まれた2003年は5.5%成長、降雨の少なかった2000年は1%前後に落ち込むなどの事例あり。

モロッコの中でも最も肥沃な土地の一つといわれるサイス平原のオリーブ畑

③日本にとってのモロッコ=タコ

日本人にとって、モロッコといえば、タコの輸入。実はこのタコは、モロッコが実効支配する西サハラ沖が漁場らしいが、この問題は「モロッコのタブー」とし別途展開する予定なので、詳細は省略。

いずれにしても見向きもされていなかったこのタコに目をつけ、40年前に日本人がタコツボによる漁を伝授し日本むけに出荷したのが始まりだとか。

最近はスシのグローバル化影響か、世界各地でタコが食べられるようになって乱獲され、水揚げ量も激減しているようですが、いまだモロッコとモーリタニアの2か国で日本のタコ輸入量の約7割を占めているとのこと。

首都ラパトからみた大西洋(ここでは、タコ獲れないかも)

⒊鉱工業

モロッコは伝統的に世界有数のリン産出国で、世界のリン鉱の3分の1を占めています。リン酸は農業の三大栄養素(窒素、カリウム、リン酸)の一つで窒素とカリウムは人口的に生産できますが(=化学肥料)、リン酸はだけは自然物であるリン鉱を利用する以外に方法がありません。

したがって貴重な資源ですが、実は今に至ってはモロッコ自身の経済成長もあり、リン鉱含めた鉱業のGDP比率は1.5%にとどまり、主要産業とはいえない状況ではあります(上のグラフ参照)。

ただし、リン酸はバッテリー(電池)の原材料でもあるので、韓国LGのほか、中国BTRが1000億円投資して工場を建設するなど、肥料とは別の形でリン鉱産出国としてのメリットを享受。

首都ラパトの街並み

一方で、工業に占めるGDP比率は14%で工業国としての側面も大きく占めるようです。というのも人件費が安くヨーロッパに近い特性を活かして、政府が積極的にフリーゾーン(=FZ=経済自由特区)を活用して自動車工場などを誘致しているから。旧宗主国であるフランスのルノーやプジョーなどがタンジェのFZに進出。

確かにモロッコ国内を巡るとルノー中心にフランスブランドの自動車が多い。これもメイド・イン・モロッコだからか。

また、モロッコは実は世界で最初に英国からのアメリカ合衆国の独立を承認した国家ということもあり、(独裁国家にも関わらず)アメリカと仲がいい。

例えば西サハラ問題も率先して第一期トランプ大統領がその領有を承認したり、FTAを締結したり、とヨーロッパに近いだけでなく、アメリカへの輸出も有利な国家のため、工場が集まりやすいのです。

アラウィー朝:ムーレイ・イスマイル廟(メクセス:18世紀)

⒋世界遺産で潤う観光業

9つの都市や遺跡が世界文化遺産となっているモロッコでは、

観光業は2018 年時点で直接的にはGDPの8.1%、雇用の7.1%を占め、貴重な外貨獲得源になっており、間接的な領域まで含めるとGDPの18.6%、雇用の16.4%に及ぶ」

住友商事「注目集めるモロッコの経済を分解してみた」

とのことで、実際に10日間ツアーに参加した肌感覚でも、相当に観光資源の豊かな国という感じ。ガイドによるとコロナ後に至ってアトラス山脈を越える道路が整備されるなど、観光業振興に向けた施策も進んでいるよう。

そしてなんと言っても観光にとって重要なのは治安なんですが、これが抜群に良い。ニューヨークなどの先進国の都市に行くよりもいいのではないか、というイメージ。というのも、ツアー会社のガイドが、女性1人で夜にホテルに帰るのを許すぐらいですから。

これって他の国ではあり得ない対応です。

モロッコのスイスと呼ばれるイフレンの街

以上、私たち日本人にはあまり馴染みのない、モロッコですが、実に魅力的な国ではあります。次回は、本稿でも話題にした「モロッコの3つのタブー」について紹介したいと思います。

*写真:モロッコ・マラケシュ:マジョレル庭園






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