イスラエルのDDR&Dとは
はじめに
以前の記事で紹介された防衛イノベーション技術研究所(仮称)。
防衛のための研究開発を中心に行う防衛省所属の研究機関であるが、似たような組織がイスラエルにも存在することはご存じだろうか。中東情勢が混迷を極めていることは連日の報道の通りであるが、そのような状況の中で「国防のための技術開発」が大きな役割を果たしている例をそこに見ることができる。
今回の記事では、イスラエルの技術力を支えている「イスラエル国防研究開発局(Directorate of Defense Research & Development: DDR&D または MAFAT)」にスポットライトを当てる。その概要について説明したのち、この機関が果たした役割について概説していく。
イスラエル国防研究開発局(DDR&D)とは
(出典:イスラエル国防省公式HPよりDDR&Dについてのページ)
DDR&Dとは、イスラエル国防省とイスラエル国防軍が共同で運営する軍事研究機関である。そのミッションは、「イスラエルが国民を保護し、かつ、軍事的な優位を維持するための能力を保証すること」である。 公式ホームページの記述によれば、軍事技術分野における知識と専門知識が集積する世界有数の研究機関であると言われており、イスラエル国防軍と防衛組織全体が使用するツールや技術の開発、生産、維持に貢献している。DDR&Dは、基礎研究や軍事への応用研究のほか、ミサイル防衛システムやUAV(無人航空機、通称ドローン)、衛生や打ち上げなどの宇宙関連技術といった、いわゆる先端技術の開発も行なっている。
次のセクションでは、DDR&Dが実際に果たしている役割について、時事ニュースも交えながら概説する。
DDR&Dの成果
4月13日、イランは、4月1日の在シリアイラン大使館領事部への攻撃に対する報復として、「トゥルー・プロミス作戦」を実行した。24時間以内に、計300以上のドローンとミサイルが、イスラエル本土を目掛け発射された。
このニュースだけを聞くと、このイラン本土からの前例のない対イスラエル攻撃は甚大な被害をもたらしたに違いないと思うのも無理はないであろう。しかしながら、イスラエル軍の発表は「99%を迎撃した」というものであった。数発のミサイルがイスラエル領内に着弾したものの、被害の内容は女児1名の負傷と南部の空軍基地の軽微な損壊というものであった。攻撃の規模にしては最小限の被害に留まったと言える。
それでは何がこのイスラエル軍による迎撃を可能としたのか。今年4月14日付のイスラエル軍のXの投稿には以下のように記載されている。
投稿の内容からは、「イスラエル軍は『アロー』というシステムを使ってイランからの飛翔体を迎撃した」ということが伺える。補足的に説明しておくと、「アロー」とは「アロー2」と「アロー3」で構成する高度なミサイル防衛システムである。開発者によれば、アローは最長2400キロ先から発射されたミサイルを迎撃することができる。(参考:イランの報復受けたイスラエル、防空システムは有効か-QuickTake)
そして、この高度なミサイル防衛技術を開発したのが、この記事の主役「イスラエル国防省研究開発局(DDR&D)」なのである。もしDDR&Dが存在しなければ、今回のイランの攻撃はもっと甚大な被害を及ぼしていたことだろう。(もっとも、十分な防空システムがないのなら、イスラエルは今回の本土攻撃の直接のきっかけとなった在シリアイラン大使館領事部への空爆をそもそも行わなかっただろうが。)
DDR&Dが果たしている国防上の役割は、我々が想定しているよりもはるかに大きいのかもしれない。
おわりに
今回の「アロー」システムによる防衛は、防衛当局による技術開発が国民の命や財産を守るのに直結することがある、ということを示す良い例となった。日本周辺でも安全保障上の懸念が強まるなかで、防衛省が主体となって技術開発への投資を行なっていくということの重要性が少しでも伝わったのではないだろうか。
もちろん、有事が起こらないことが一番であり、それのための外交努力が重要であることは言を俟たないが、「もし」が万が一起こってしまった場合に国民の命を守れるような研究が防衛イノベーション技術研究所(仮称)でも行われることを期待したい。