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防衛イノベーション技術研究所の基となったDARPAとは


はじめに

以前の記事で紹介した、「防衛イノベーション技術研究所(仮称)」。防衛省の外局である防衛装備庁の下部組織として2024年秋にも発足する。
先端技術に裏付けられた「新しい戦い方」が顕在化が顕在化している中、防衛装備品の開発を強化し、将来の技術的優越を確保できる機能・技術の創出することが目的だ。
この「防衛のための研究開発」というコンセプトは、日本独自の全く新しい取り組みというわけではない。モデルとなった取り組みがアメリカにすでに存在する。
今回の記事では、日本が防衛イノベーション技術研究所(仮称)を設立するにあたって参考にした、米国の国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency: DARPA)について解説する。これらの組織の概要を理解することで、「防衛イノベーション技術研究所(仮称)」を設置した政府の意図がより詳細に見えてくるであろう。

米国国防高等研究計画局(DARPA)とは

DARPAは、軍用技術の開発および研究を行う米国国防総省の内部部局である。大統領と国防長官直轄の組織で、米軍や議会からの直接的な干渉を受けない。
その歴史は意外にも古く、米ソ冷戦時代まで遡る。1957年10月4日、当時のソ連は、人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げ成功した。ソ連の科学力を完全にみくびっていたアメリカをはじめとした西側諸国は、この報によってその威信を大きく傷つけられたとともに、技術的な遅れをとることへの危機感を募らせた。いわゆるスプートニク・ショックである。
時の米国大統領、アイゼンハワーは、国防総省内部に防衛科学技術担当長官(Director of Defense Research and Engineering: DDR&E)を設置し、翌1958年には、ニール・H・マッケロイ国防長官の命令により、DDR&Eの下に、最先端科学技術を短期間で軍事技術へ転用させるための研究を管理する組織として高等研究計画局(Advanced Research Projects Agency: ARPA)が設立された。そして、1972年、ARPAは、その先頭にDefenseのDの文字を加え、DARPAと改称された。
DARPAは具体的に何を研究してきたのか。有名なものだと、インターネットがある。インターネットは、もはや我々現代人の生活に欠かせない重要インフラとなっているが、そのもとを辿ればARPA時代に開発されたARPANET(Advanced Research Projects Agecy NETwork)に辿り着く。また、我々の日々の道案内をこなすカーナビやGoogleマップに使われているGPSも、DARPAが開発したものである。
現在は、基礎・材料科学・生物学、情報、サイバー、エレクトロニクス、フォトニクス、MEMS、センサー、通信、エネルギー、兵器、宇宙といった分野で200近くのプロジェクトが進行している。

日本の防衛省が取り入れたもの

ここまでDARPAの概要を説明してきたが、日本の防衛省は彼らの一体どこを参考にしたのだろうか。
防衛イノベーション技術研究所の親元となる防衛装備庁からの資料を見ると、以下のような記述が見られる。

防衛装備庁「防衛装備庁に新たな研究機関を創設します」より

DARPA的なアプローチと題されたこの部分のポイントをまとめると
①全く新しい技術の創造
②積極的なリスクテイク
の2点に集約される。
確かにDARPAには、このようなアプローチを可能とする組織的・文化的特徴がある。
まず組織的な特徴として、各研究はプログラム単位で進行するが、プログラムの取りまとめ役となるプロジェクトマネージャーは、任期付き雇用によるスタッフ・ローテーション・システムを採用している。こうすることで、外部の研究者等を積極的に採用することができる。また、スタッフの固定化を防ぎ、組織の柔軟性を確保することで、アイデアや技術革新などの速度や質を常に高い水準に保つことが可能となる。こうした組織のあり方が、ひいては①全く新しい技術の創造を実現することができるのである。実際に防衛イノベーション技術研究所(仮称)の募集要項資料を見ると、新進気鋭な外部の人材を任期付きの職員として積極的に採用していく姿勢が見て取れる。
次に文化的な特徴として、「失敗を肯定する」というものが挙げられる。すなわち、リスクの高い技術上のアイデアを追求することを奨励するために、失敗を技術開発上不可避なものとして考え、肯定する文化があるのである。実際DARPAでは、過去に研究開発プログラムに失敗したチームが、再び別のプログラムに参加希望をした際も、以前の失敗は考慮に入れないと言われている(参考:米国のDARPAから学び、日本にイノベーションを生み出せる異なるアプローチを構築しよう(前編))。実際に防衛イノベーション技術研究所(仮称)がこのようなオペレーションを行なっていくのかはまだわからないが、②積極的なリスクテイクのアプローチを実現していくのであれば、DARPAのオペレーションも参考にしていくことは十分考えられるだろう。

終わりに

国際安全保障環境において顕在化する先端技術に基づく脅威に対応するため、今回日本政府は防衛イノベーション技術研究所(仮称)の設立を決定した。この状況は、1958年に米国が大急ぎでDARPAの前進となるARPAを設置した状況と近しいものを感じる。
防衛イノベーション技術研究所(仮称)は「日本版DARPA」になれるのか。その鍵は、チャレンジへの惜しみない投資と失敗に対する寛容さにあると思われる。そういう意味での“スタートアップマインド”が、政府にもより浸透していくことが期待される。

参考文献

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