日英伊の次期戦闘機共同開発と防衛装備移転原則の緩和(前編)
はじめに
(出典元:NHKニュース、2024年3月26日付)
政府は、本年3月26日に行われた閣議で、イギリス・イタリアと共同開発を進めている次期戦闘機について、第三国への輸出を容認することを決定した。実際の輸出にあたっては、無条件に容認するというわけではなく、与党で協議を行うようにするため個別の案件ごとに閣議で決定するほか、戦闘が行われている国には輸出しないなどとしている。
実は、今回の政府が見せた動きは、一部のジャーナリストや専門家からは「平和主義政策からの転換」(BBC、2024年3月26日付)や「平和主義から逸脱」(東京新聞、2024年3月26日付)などと形容されており、その是非について議論を巻き起こしている。
そこで、今回は本ニュースに対する詳細な理解を目的として、日英伊の次期戦闘機共同開発プロジェクトとはそもそも何なのか、今回の政府による第三国輸出の容認決定が一体どのような意味を持つのか、ということについて前編と後編に分けて考察していく。
前編となる本記事では、前提知識の確認も兼ねて、日英伊の次期戦闘機共同開発の概要について解説する。
そもそも次期戦闘機とは
実は、「次期戦闘機」というものについての具体的な定義は存在しない。つまり、完成形についても誰も想像できていないというのが現状だ。(本記事のメイン画像もあくまでイメージ図とされている)
しかしながら、次期戦闘機についての構想が全くの白紙ということはもちろんなく、防衛省は「次期戦闘機」が備える特徴について以下のように記述している。
つまりは、世界的に軍事への新技術の応用が加速している中で世界の航空戦のトレンドを先取りし、また、日本の航空優勢を脅かすような技術や戦い方が出現した際には、柔軟に対応できるような戦闘機が「次期戦闘機」として想定されているようである。
日英伊による次期戦闘機共同開発
以下の文は、2022年12月9日、日英伊3カ国の首脳より発出された「グローバル戦闘航空プログラムに関する共同首脳声明」からの抜粋である。
最初の段落は、日英伊各国の認識の一致を確認するものとなっている。ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルとハマス間の紛争、米中地政学競争などに見られるように、国際社会情勢は日に日に厳しさを増しているが、そのような中で、志を同じくする国の間でのさらなる安全保障・防衛パートナーシップの深化の必要性が強調されている。
そして、第二段落において、その安全保障・防衛パートナーシップの深化のための一環として発表されたのが、「グローバル戦闘航空プログラム」、すなわち日英伊による次期戦闘機共同開発プロジェクトである。第三段落では、同プロジェクトを通じて、3カ国の間で防衛協力・科学技術協力・サプライチェーン統合が促進されることへの期待が示されている。
この「グローバル戦闘航空プログラムに関する共同首脳声明」をきっかけとして、日英伊の3カ国は次期戦闘機の共同開発へと向けて協力関係を深めていくこととなったのである。
同声明から1年後の2023年12月4日には、共同開発プロジェクトを管理する国際機関であるGIGO(GCAP International Government Organisation)を設立する条約が日英伊によって署名された。これによって、日英伊間の効率的な協業体制の構築がさらに推進されている。
(出典:防衛省「次期戦闘機の開発について」)
終わりに
一般に共同開発のメリットというのは、技術共有によるイノベーションへの期待や、開発コストやリスクの分担が挙げられるが、今回の日英伊による次期戦闘機開発が持つ意義はそれにとどまらない。すなわち、一層厳しさを増す安全保障環境の中、英伊両国との幅広い協力の礎となるのである。
今回の内容を踏まえて、次回の後編の記事では「次期戦闘機の第三国輸出の容認」という政府の動きがもつ意味について考察していく。