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防衛装備研究の新組織「防衛イノベーション技術研究所」とは


はじめに

令和6年度、防衛省の外局である防衛装備庁が「防衛イノベーション技術研究所(仮称)」を創設する予定だ。
(参考:2月24日読売新聞オンライン2月26日日本経済新聞
防衛装備品の開発を強化し、将来の技術的優越を確保できる機能・技術の創出することが目的である。官民双方から幅広い人材を登用しつつ、早ければ今秋にも100人態勢で発足する。
今回の記事では、この「防衛イノベーション技術研究所(仮称)」の創設に至った経緯とその具体的な内容について解説する。そして結びとして、新組織の発足が今後の産学官連携にどのような影響をもたらすかについて簡潔に記す。

「新しい戦い方」への対応

林芳正官房長官は今年2月26日の記者会見で、創設の背景について「科学技術の急速な進展が安全保障環境にも大きな影響を及ぼして戦闘を変えつつある」と述べた。
このように発言した林官房長官の脳裏には、2022年末に公開され話題となった「防衛三分書」があると推測される。(なお、この「防衛三文書」の概要については以前の記事で詳細に解説されているため、そちらを参照されたい。)
とりわけその三文書の中でも、中長期的な防衛力強化の方向性と内容を示した「国家防衛戦略」には以下のような記述がある。

これまでの航空侵攻・海上侵攻・着上陸侵攻といった伝統的なものに加えて、精密打撃能力が向上した弾道・巡航ミサイルによる大規模なミサイル攻撃、偽旗作戦を始めとする情報戦を含むハイブリッド戦の展開、宇宙・サイバー・電磁波の領域や無人アセッ トを用いた非対称的な攻撃、核保有国が公然と行う核兵器による威嚇ともとれる言動等を組み合わせた新しい戦い方が顕在化している。こうした新しい戦い方に対応できるかどうかが、今後の防衛力を構築する上で大きな課題となっている。(国家防衛戦略p.5、強調は筆者)

つまり、近年の安全保障環境においては、従来の陸・海・空の領域にとどまらない「新しい戦い方」が出現してきており、それへの対応が急務であると指摘するのである。
そうした「新しい戦い方」を可能なものにしているのは、いうまでもなく先端技術である。
ここでの先端技術とは、例えば、防衛省は「スタンド・オフ防衛能力、海洋アセット、ソフトキル、無人アセット防衛能力、人工知能(AI)、次世代情報通信、宇宙、デジタルトランスフォーメーション(DX)、高出力エネルギー、情報戦」を挙げている。(下図も参照)

防衛省「最先端技術の早期装備化に向けた取組」より
https://www.mod.go.jp/j/budget/rapid_acquisition/index.html)
世界各国が先端技術に裏付けられた軍事力・防衛力を着々と整備している中、日本も独自の研究開発体制を構築することが長らく求められてきた。
今回の新組織の創設は、こうした安全保障上の要請を基にして決定されたものであると考えられる。

防衛イノベーション研究所の中身

それでは、「防衛イノベーション技術研究所(仮称)」とは具体的にどのようなものなのだろうか。
この研究所は、防衛装備庁に設置される。なお、防衛装備庁とは、「装備品等の研究開発及び生産のための産業基盤の強化を図りつつ、研究開発、調達、補給及び管理の適正かつ効率的な遂行並びに国際協力の推進を図ること」を任務としており、防衛省の外局として2015年に設置された比較的若い省庁である。
その中でも本研究所は「これまでとは異なるアプローチ、手法により、変化の早い様々な技術を、将来の戦い方を大きく変える革新的な機能・装備につなげていく」ものとして位置付けられている。
特徴はスピードに重点が置かれていることである。
下記の図にも示されているように、スタートアップ的な組織体制並びに意思決定構造をとることで、いわゆる「旧態依然としたお役所」のイメージから脱却することを図っている。

防衛省「防衛力抜本的強化の進捗と予算」(2023年12月)より
また、スピード感は研究所の機能にも表れている。
本研究所が担う主な機能は、①「安全保障技術研究推進制度」②「ブレークスルー研究(仮称)」の2つである。
①については、防衛イノベーション技術研究所が、大学等における革新的・邦画的な技術についての基礎研究を公募・委託する。104億円の予算がつけられており、大学や企業の力を活かしつつ、出口を見据えた基礎研究をさらに促進させていく狙いだ。
②について、防衛イノベーション技術研究所は、チャレンジングな目標にリスクをとって果敢に挑戦し、将来の戦い方を大きく変える技術をスピード重視で創出していく。このような研究のあり方は「ブレークスルー研究(仮称)」と呼ばれ、102億円の予算がつけられている。こちらについても、これまでにはない機敏さへの希求が伺える。
目まぐるしく変わる安全保障環境と日々驚異的な速度で進化を遂げる先端技術に的確に対応していくには、これまで以上の迅速さが求められているということであろう。

おわりに

この政策を成功させるには民間企業や大学との協力が不可欠である。実際、本研究所の構成員のうちの約半数は外部から登用される予定である。特に上述のスピード感を実現していくには、スタートアップで経験を積んだ人材がもたらす知見が必要不可欠となっていくだろう。
また、「安全保障技術研究推進制度」に基づく基礎研究の公募・委託にあたっても、それを受ける大学や企業の存在が前提となる。安全保障分野における、人材交流・研究委託を通じた産学官連携はますます進んでいくことが予想される。

参考資料

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