
すずはすずでも。
大森の煮込みに寄った。
カウンターの右隣二人客は職場の同僚か。
「おれ、高校楽しくなかったんだよね、だから記憶がなくて」
同感だ。隣のオヤジとは1ミリも関係ないが、俺も高校は灰色だった。
天井からドリカム、沢田研二、高橋真梨子、ノッコの歌声が降ってくる。
12月だから内外のクリスマスソングもかかっている。この季節、たくましい商業主義の洗脳により、否が応でもその気分にもっていかれるが、日本の曲の中にも、しみ入るものはたまにある。クリスチャンでない自分にとってその要因はメロディか。
店がつけ忘れた伝票に、自ら加算しているご常連がいるかと思えば、100番ボトルの先輩は、頼んだのにちっとも出てこないハムエッグになにひとつ文句を言わない。自身のペースでキンミヤを傾けている。
俺にはホッピーと煮込みとタコ唐と白鷹と菜の花が入り込んでくる。
右の先輩は後輩に、酒を温める「ちろり」を錫製だと説明し、元素記号何だっけと、自分で振って答えられないまま、「千葉すずじゃないぞ」と。(広瀬すずでないところが何とも微妙)
酔いは恐ろしい。そして後輩は応じられずにいる。
12月の美しすぎる飲み屋の風景だ。