【明暗分かれた2人のキーマン】Arsenalマッチレビュー@PL第13節vsBrentford(A)/23.11.26
試合前トピックス
・マルティネッリ、ガブリエル、ジェズスブラジル代表戦出場
→マルティネッリA代表初ゴール記録
・ハヴァーツ、ドイツ代表左SB出場でゴール記録
・冨安、バイエルンからの関心も契約延長締結方向へ
マッチレポート
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試合トピックス
不安定な正守護神を筆頭に封じ込まれる
たった2週間、されど2週間。代表戦士に選出されたアーセナルの選手たちが各々結果を残してきた代表ウィークの影響でかなり久しぶりな感じがするリーグ戦。直前に開催された1位のシティvs2位の復調してきたリバプールの天王山が1-1と痛み分けだった為、今節勝てばアーセナルの単独首位が確定するという中断明けにも関わらずいきなりの大事な試合となった。
アーセナルは対戦相手がレンタル元で出場不可のラヤに代わり9月以来リーグスタメンを飾るラムズデールがゴールマウスを守る。左SBにはジンチェンコ、怪我から復帰してきたジェズスとウーデゴールが戻り、トロサールが左IHを務めるという割と攻撃的な選出を行う。格下といえどもロンドン勢相手に直近14試合負けなしという地元への勝負強さを見せるブレントフォードを、同じくロンドンダービー16試合負けなしのアーセナルが圧倒的火力で叩き潰せるかどうか、そしてトロサールのIH起用といった部分に期待が高まる。
鬼門コミュニティスタジアムでブレントフォードが初めに選んだ戦い方は5-3-2のディープブロック×高い位置でハメる圧縮プレスのハイブリッド作戦。基本的には5-3の防波堤でエリア内外を固めて楔をがっちりと咎める守り方をしつつ、アーセナルのGKやCBにボールが入ると前線とWBが連動。徐々に逃げ道を無くし奪いきるスタンスでWGへのダブルチェックも怠らない徹底したアーセナル対策を行ってきた。
これに対し一番の弊害を食らったのがラムズデール。プレスを受けたガブリエルからのハメパスを貰ったラムズデールがキックタイミングを見誤ったシーンでは、至近距離でシュートを撃たれるも鋭い危機察知でゴールカバーに入ったライスがライン上ではじき返すファインプレーで難を逃れる。しかしこの場面を皮切りに不安定なプレーを連発。ラヤとのスタメン争いによるメンタル面へのダメージからか無理に繋ごうとし却ってミスを招くという悪循環に陥ってしまっていた。
負けじとCKのリターンからトロサールがミドルを放ち、マルティネッリの右サイド出張やジンチェンコの高いポジショニング等で状況の打開を図るも依然好転せず。ラムズデールはミス直後ホームサポに煽られる中トロサールへの見事な楔を通すもキック精度も自然と悪化していき、奮わない時の頼みの綱であるセットプレーは息が合わず何度もやり直ししてしまう始末。こういったミスに対し今が好機とブレントフォードが前からのプレスを行う頻度を高めていき、どんどん会場の雰囲気に呑み込まれてしまう序盤戦であった。
空中戦に光明を見出すも定まらない仕上げの形
時間が経てど今度はスローイングを真下に叩きつける軽率なミスからショートカウンターを招くラムズデールを横目に、アーセナルの攻撃局面では逆境にめげずよく走り仕掛けるマルティネッリとポストで起点になるジェズスの奮闘が目を引く前半。エンドラインぎりぎりを抜けるジンチェンコ→マルティネッリの見事なスローインからサカのクロス→抜け出したジェズスと合わせ、一度弾かれたボールをトロサールが詰め厳しい中先制に成功するもVARの結果オフサイド。得点を取れる適切なポジショニングというトロサールの武器が遺憾なく発揮された場面であったが、取り消しにより得点で不穏な空気が一変することもなく不安が残る前半戦となってしまった。
こうして代表戦後でリーグに戻り切れていなく締まらない入りになってしまったのか苦戦を強いられるアーセナル。前半に続き今度はジンチェンコの神クリアに救われるシーンもあったが、前半終了間際のあたりからブレントフォード攻略の糸口を掴み始める。
それはずばり「空中戦」である。前節バーンリー戦でも採用されたブロック外からの飛び道具による破壊だが、中身はそれと比較してもっとシンプル。深い位置を取ったマルティネッリの戻しをジンチェンコがピンポイントクロスを供給する左サイドと、比較的早い段階でファーに巻くクロスをサカとウーデゴールが供給する右サイドと左右で異なる味付け。
しかしこの時のアーセナルは仕上げの形をチーム全体で意思疎通できておらず、クロスに対しその次の手立てが確立されていなかったのが致命的であった。ペナルティエリア角から放り込むも走りこんでくる枚数が足りずエンドラインを割るの繰り返しで、クロスという選択肢は悪くないものの出し手のアクションに対して仕留めるべきポジションに立つ選手が反応できておらず天を仰ぐ時間も少なくなかった。
そしてもう一つ。アーセナルのちぐはぐな点として挙げられるのがアルテタのあちらを立てればこちらが立たずといった交代策。密集地帯を反転突破が可能なエンケティアを入れるのは良いが、前半から継続して使っていた後方からのロングボールが収まるジェズスを下げてしまったことによりセカンドボールを相手に拾われる頻度が高まり、結果としてカウンターを誘発してしまうようになってしまった。
また、クロスへの飛び込み適性が高い選手として体躯と嗅覚に優れたハヴァーツの投入もかなり効果的で良い判断だと思ったが、トロサールもいてクロスの出し手としての側面が大きかった左サイドに対して右に置くのではなく左IHとして出場したり、折り返しでチャンスを創出し続けていたマルティネッリを代わりに下げてしまうなど、なんだか別で痒い所を自ら作りに行っていってる感が否めなかった。
£60mの男、カイ・ハヴァーツ
それでも何度も何度も押し込み続ける最終盤。撃ち合い上等と言わんばかりにCB陣に後方のカバーを任せ、SBやアンカーライスらも積極的にバイタルへの侵入を敢行。ミドルシュートででブロックの歪みを狙いクロスのチャンスを作っていく。
そして猛攻が結実したのが試合終了間際の89分。今度は右サイドで深さを取ったウーデゴールに守備陣が引き付けられ、開いた空間を抜けファーへ届くサカのクロスに、しっかりとオフサイドラインを見極めつつギリギリで飛び込んできたハヴァーツがヘッドでGKフレッケンの股を抜くゴールを獲得。チームにとってもハヴァーツ自身にとってもあまりに大きすぎる先制点/決勝点をマークする。
おそらくほとんどのグーナーが、50分近く続けたクロス爆撃戦法に対してハヴァーツの投入がガン刺さりするだろうと感じていたに違いない。かくいう私も例に漏れず、ハヴァーツが79分という終盤に投入されても得点に絡む確信があったと自信を持って言える。また、マルティネッリの交代は少々不可解であったものの、試合を通してあまり活躍できていなかったサカとウーデゴールを辛抱強くピッチに残したアルテタの采配も見事。最終的にアシストを残すサカも、右サイドから必ずチャンスがやってくると信じ待ち構えていたハヴァーツも本当によくやったと心から称賛したい。
ゲーム総評
自分たちのミスや崩し切れない時間帯が長かったこともあり、シーズンを通して屈指の渋い試合となってしまったが、復活の狼煙を上げたハヴァーツが値千金の決勝点を決め勝ち点3ptを手繰り寄せてくれた。
今節はアルテタがアーセナルを率いての通算200試合目。そんなメモリアルな試合で、シーズンの1/3を消化した時点で2位シティに1pt差であるものの単独首位へと躍り出ることが出来た。今季のアーセナルは派手さがなく最小得点で静かに競り勝つ試合が多い為苦戦し続けているような感覚がどこかあるが、それでもしれっと首位に立っているのだからやはり昨季とは違った淡々とした強さみたいなものが継続して発揮できているのだと改めて実感する。
また繰り返しになるが、PKで決めた事こそあれど燻り続けていたハヴァーツが自信を取り戻す素晴らしい得点を流れの中から獲得出来たことはファン目線から見てもとても嬉しい。彼らしいハーフスペースランと嗅覚を象徴したかのようなゴールで、大仕事を成し遂げたハヴァーツは試合後にはアルテタに連れられアウェイファンの下で大きな称賛を受けた。また、ミスが目立ち不安定さが露呈してしまったラムズデールに試合終了後仲間たちが声をかけ励ます様子も見られ、課題こそあれど今のチーム状況は確実に上向きなものだと感じる、そんな心温まるシーズン中の一幕であった。