【停滞から合理的な勝ち方へ】Arsenalマッチレビュー@PL第12節vsBurnley(H)/23.11.12
試合前トピックス
・トーマス、ティンバーの長期離脱、スミスロウ、ジェズス、エンケティアら含めて負傷者続出
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試合トピックス
苦戦に見えた省エネスタイル
試合前トピックスでも触れたが現在のアーセナルは気づけば野戦病院化しており、今節は過労死寸前なホワイトもフィットしておらずベンチにはアカデミー組が3人。調子の戻らないウーデゴール等も加味するとかなりギリギリのやりくりになってしまっており、スタメンとして自信をもって送り出せる最後のメンバー達が名を連ねたようなイメージだ。
そんな11人がピッチに立った今節。冨安が久々に右SBにつき、トロサールも引き続きCFとして出場した。いくらメンバーが欠けているとはいえ、昇格組バーンリーに与するのは容易だと思われたが、試合はそう単純な話ではなかった。
まずバーンリーの守備陣形はミドルサードにセットする縦横共にナローな4-4-2。CFはCBへプレスを頻繁にかけない代わりにジョルジーニョ+絞るジンチェンコを背中で消して構える形をとり、CBの手元からボールが離れた際にSHやCHがプレッシャーをかけるスイッチを入れ、全体が連動するような流れでブロック内とサイドでの圧縮をもってアーセナルの循環を切ることを狙ってきた。
この形はある程度ハマっており、アーセナルの攻撃はスムーズに行えている印象は少なく、2人にボールが入ってもCFのプレスバックと2列目に挟まれ自由にプレーできる時間とスペースが与えられていなかった。また両WGには当然のようにダブルチェックが付きブロック外からの突破も困難。ともするとホームでゲームを支配しきれずまさかの苦戦?と発想が次のステージへと移ったが、この自分の認識が間違っていたと後々になって感じることとなった。
まず行ったのは中央の2人のマイナーチェンジ。具体的にはライン間で受ける事よりCFの脇に降りてきてCH/SH間を狙うパスのチャレンジにシフトチェンジし、敢えて出力を上げ過ぎず無理な楔を打たないように意識づけた。
とすると、今度は最終ラインから中へ差し込んでも攻撃の帰着が大外からのアクションになるような状況になってしまったが、アーセナルはここにもしっかりと解決策を見出す。それは有効なクロス選択だ。
試合序盤こそはバーンリーの最終ラインに跳ね返されているだけに思え、前述したようにうまくいっていないように見えた大外クロス戦法だが、相手の守備ベクトルを観察しゴール方向へ向かう巻いたクロスとDF/GK間へ入りこむ順足クロスとを状況により使い分け一辺倒な対応では対処しきれないようにした。深い位置までもぐりこんだマルティネッリのえぐるクロス、ハーフスペースを取ったライスのアーリークロス、ゴールへ吸い込まれるサカのクロス等ただ放り込むのではなく手を変え品を変え単調にならないように気を付けた。
また彼ら前線の選手だけではなく、押し込んだあとに冨安やジンチェンコといった精度高いサイドチェンジが可能な選手が後方にいたことも大きかっただろう。クロスの種類と頻繁なサイドチェンジで相手に視線移動を強制させるやり方は、ブロックを敷いて跳ね返すシットバックなチームと戦う上で王道ともいえる戦い方。数字絶対残すマンことトロサールの先制点は、ジンチェンコのクロス→サカの折り返し→トロサールのヘディングとまさしく視点移動の連続を強制させた結果生まれたものだった。
試合序盤こそバーンリーの土俵で戦っているように思えたが、彼らの土俵に乗った上テイストを知り、改めて自分たちの土俵に塗り替えていくかのようなイメージと言えばいいだろうか。郷に入っては郷に従い、郷を知って郷ごとじっくりと破壊。自分達が描く試合設計を押し付けるのはエネルギーの要ることで、そちらがこう来るならと言わんばかりな淡々と対処法を実行していくアーセナルは、ある意味省エネともいえる強者の戦い方を実演していた。
キャプテン不在も新たな可能性の右サイド
アグレッシブなプレスとコンパクトなブロックを使い分けたバーンリーのプランを打ち壊したのはもう一つ、キャプテン不在に伴いまた右IHとして出場したハヴァーツ率いる右サイドの連携面が素晴らしかったことが挙げられる。
前提として具体的にウーデゴールとハヴァーツの違いを説明しておくと、前者は自らがタクトを振るってパスを送り込んだり定点からの攻撃開始において口火を切るタイプ。対する後者は周りの選手との距離感を見てプレーの選択肢を広げるためにポジショニングを調整し潤滑油となるタイプだ。
で、今節戦ったバーンリーは4-4のブロック×SHが吸収され両WGにダブルチェックをしっかりとつけることを徹底してくるチームとなっており、ウーデゴールがいたとするとおそらく4-4より手前に降りキーパスを狙う時間が多かっただろう。それが決して悪いという訳ではないが、イングランドフットボールを体現したような屈強なDF陣要するバーンリーブロックへ手前に降りパスを通そうとすると、崩し切る前の少々無理なパスにより多くがはじき返されていた未来が見えてくる。
これに対し使われる側の動きに長けたハヴァーツが入ってきたことによる恩恵としては、
①ハーフスペースを抜け最終ラインを乱す
②大外へ流れサカをマークから解放
③トロサールを交えたワンタッチパスによるシュートに至る前のテンポアップ
④ポスト役とセカンドボールの回収による踏ん張り
といった数々のサポートによる右サイドの循環を生んだことだ。ホワイトやウーデゴールといったサカにとって馴染みのメンツが居なくても普段かそれ以上に右サイドが活性化されスタメン組の不在を感じさせなかったのはハヴァーツの貢献によるところが大きいのではないだろうか。
またしても得点関与こそなく、試合を見ていない人にとってはよく槍玉にあげられてしまうハヴァーツ。しかし90分通してよくよく彼のプレーを見ていると、他を生かすプレースタイルが間接的にチームを助け勝利へと繋がっていっているのがわかってくる。前線の台所事情はもうしばらく厳しいのが予想されるが、彼やトロサールが居るおかげで安心して見ていられた。
躍動する若手をチャンス量で押し潰す
基本アーセナル側が主体となってゲームを手中に収める時間が多かったが、バーンリーのカウンター局面になると左SHに入った19歳のコリオショが敵ながらあっぱれな活躍を見せていた。
後半開始早々3人に囲まれながらもするすると持ち上がり、競り合いに勝ったかに思われたサリバを逆にちぎり返してエリアへ侵入していったシーンには冷や汗をかいたし、バーンリーの同点弾も冨安が一度はコリオショからボールを奪ったかと思いきや奪い返されポケットからパスしてきたのが起点となり生まれたものだ。弱冠19歳にしてプレミア屈指の対人性能を誇るサリバ/冨安両名を出し抜く技術とスピードは厄介だった。
そんな彼の奮闘も含めアウェイチームにとってまだ希望を繋ぐ残り時間30分強という段階で同点に追いつかれ、試合展開がイーブンに傾きかけていたところに、サリバが意趣返しともいえるCKからのヘディング弾で再リードを作ることに成功する。また、立て続けに17分後、またもCKから今度はこぼれを見事なカンフーキックで抑えの利いたシュートをジンチェンコが叩き込でリードを広げ、ヴィエイラの退場という少々不幸なアクシデントがありつつも余裕をもってゲームをクローズ出来た。
アーセナルはクロスという飛び道具によるブロック破壊を主題の一つとして前半から攻撃を継続しており、それに伴ってCKも13本と多く獲得していた。そんな自らが狙って生んだチャンスを、追いつかれても動じず2度も決めきることが出来たところから一つ目のトピックでも触れた試合巧者ぶりの一端に触れられると共に、やるべきことをやるだけといわんばかりの強者としての余裕が垣間見えた。サリバの可愛いドヤ顔も、サカとトロサールの謎ゴールパフォーマンスにジンチェンコが加わった3人verのもアーセナルの現在の良好なチーム状況を感じ取れる。
ゲーム総評
シーズンでも最もイージーな部類に入るだろう今節のカードだったが、パッション/戦術両面で見所たっぷりな満足度高いゲームだったと振り返ってみて思う。ホームでクリーンシートこそ達成できなかったものの、複数得点とそこに至るアーセナル側のデザインされた道筋を選手のプレーから読み取ることができ、アルテタ自身の成長とチームの成長が感じられた。
トロサールがエミレーツスタジアムでの通算1000ゴール目を記録するなどポジティブな雰囲気で幕を閉じた今節でプレミアリーグは一旦おしまい。約2週間の代表ウィークを挟んでから、次節はブレンドフォード戦だ。
スミスロウが思ったよりも復帰が早そうという朗報がありつつも依然として怪我人状況は芳しくない。だが今節行ったような戦巧者スタイルを貫き通せられれば難しい試合にはならないだろう。圧倒的火力で先制し逃げ切る昨季の戦い方から一皮むけ、出力と成果のコスパ最大化が出来るようになった今のアーセナルはまた違った面白さと強さに溢れているのだ。
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