【難所で6年ぶりの勝ち星】Arsenalマッチレビュー@PL第5節vsEverton(A)/23.09.18
試合前トピックス
・サカ&ウーデゴール、バロンドール候補30人にノミネート
・ラムズデール、ヤシン賞10の候補にノミネート
・ペペ、トラブゾンスポルへ移籍
・代表ウィークはアーセナルから16人の選出
・ガブリエル、ブラジルA代表デビューで高評価
・冨安、ドイツ4-1撃破に獅子奮迅の活躍で貢献
マッチレポート
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スターティングイレブン
試合トピックス
2017年以来勝利無しのグディソンパークを攻略
今から6年以上も前、実にヴェンゲル監督の時代からリーグ屈指の苦手会場となっていたエヴァートンの本拠地グディソンパークで、遂に勝利を収めることが出来た。
試合は全体を通してアーセナルがペースを保っていたとみるのが自然だろう。アーセナルの苦手意識云々よりも、そもそもとしてエヴァートンは毎年降格圏をさまようチーム。今年も例に漏れず4戦1分3敗で、その3敗に至っては全て無得点と低迷を極めるスタートダッシュを切っていた。
そんなチームに対する姿勢としては代表ウィーク前のどこか攻守にちぐはぐしていた印象とは大違い。エヴァートンの4-5-1ブロックにそこまで苦戦せずボールを握り続け、左右に振ってから空いたスペースへ送り仕留める形を徹底して行えていた。
理由の1つ目としては、やはり可変や連携面で動き慣れた4-3-3スタイルの人選だったことが大きいと思う。サカはホワイトの助力+ライスの素早いサイドチェンジのおかげもあってダブルチェックが付く前にミコレンコと正対出来ていたし、ジンチェンコは中盤でテンポを生み出すパスを供給、ガブリエルとサリバで新加入の長身ベトを封じ切れていた。
新3-6-1システムへの変化・併用という点、スタメン落ちしたハヴァーツの起用方法といった点では未だに明確な答えが出せていないものの、トーマスや今節新たに負傷交代してしまったマルティネッリといった怪我人がいる現在では、上位陣に離されない為にもとりあえず4-3-3システムを使い続けるのがベターのような気がする。
青天井のライスとデビューを飾ったラヤ
そして2つ目に新加入の2人が4-3-3システムにそのまま+αの戦力となって乗っかり純粋な強化を果たした事である。
今節でデビューを飾ったラヤはプレミアリーグを普段見ている人ならば御存じの通り、フットサル経験を生かしたというずば抜けて高い足元の技術に加えシュートストップやキック精度に定評のあるGKだ。
その能力が今節遺憾なく発揮されたと見て良いだろう。何よりも目立ったのがGKのCB化。ラムズデールと比べバックラインの一員としてパス回しに参加する位置取りを意識的に行っており、保持局面で後方に3枚を確保することでライスの過度な列落ちを防ぎ人数を前に送り込める恩恵を感じた。勿論プレスがはまりどうしようもなくなったシーンでのロングボールについても申し分なく、詰まったと思った次の瞬間には大外でフリーになっていたホワイトへ送り届け却ってフリーな状態から攻撃を開始出来たシーンが何度かあった。
そしてライスに関してはもう褒める言葉が見つからない。こちらの高い期待を毎度超えてくるのだから、この選手はどこまで伸びるのかもはや見当もつかない、本当に超人である。
特に非保持局面の働きは素晴らしかった。まず周囲がよく見えているのでそもそもの判断速度が早い。ここはハントしに行くのか、それとも味方の戻りを待つ為にディレイをかけに行くのか、という風に。次にその判断から出足の良い守備も光る。これはストロークの長い走りと足という武器と、判断から実行に移す過程が他の選手よりも短い印象がありこのシナジーが生み出すものだろう。そしてただ奪って終わりではなく、刈り取った直後にまた視野の広さを生かして、安易なバックパスに逃げずカウンターに移行することが出来る。トランジションという両軍の陣形が通常とは異なり乱れ、判断・対処が都度変わる、footballにおいてトップクラスに難解なフェーズをさも上から俯瞰して処理しているかのような余裕・技術を見せた。そんなワールドクラスの選手を獲得出来た幸運を改めて実感した試合だった。
前線のシナジー問題
また、ヴィエイラのIHはスタメン昇格を予期させるような出色のパフォーマンスだった。特筆すべきは意識的なランニングとネガトラの修正である。今節エヴァートンは前に出てくる場面はあれど基本はローブロックを形成。そうなると相手の陣形前でUシェイプパスを繰り返してしまうパターンに陥ってしまうものだが、ヴィエイラは陣形の縦方向への間延びを狙った裏抜けに何度もチャレンジしゴールに迫るシーンも多かったし、ネガトラに関してはデュエル強度が以前より改善されていた。
途中出場のトロサールも、低い位置でのロストが相変わらず目立つものの数字をきちんと残す活躍。中々ゴールが生まれなかった中で値千金の決勝点を記録したことは前線の選手として何よりも評価されるべき点であると思う。
ここで少し気になるのが前線のメンバー起用について。とその前に、前提としてサカとウーデゴールの2人に関してはスタメン固定で文句ないだろう。ここに関しては異論の余地は無いと思われる。問題はその他の部分である。
まず今季ここまでは好調エンケティアがCFを務め、昨季を踏襲した左WGマルティネッリにジャカの抜けた穴へと入ったのが新加入ハヴァーツである。この3人について、それぞれの能力に対して疑いの余地は無いが、各々の特性と同時起用による相互補完という点においてはどうにもうまくいかないような印象を抱く。馬力を生かした強烈な縦を持つマルティネッリと、テンポ良いパス回しから抜け出したいハヴァーツ、スペースに飛び込む嗅覚に優れたエンケティアとでは、いずれもタメを作れる選手が最低でも1人欲しい。具体的にはトロサールやジェズスといったキープ力やリズムを作って味方のサポートに優れた面子だ。
そして今節抜擢されたヴィエイラは、相手の中盤を誘い出すようにふらふらと左IH周辺のポジションを彷徨ってマークを請け負い、マルティネッリがヤングと1vs1を張れるようサポートしていたのが印象的だった。エンケティアの戻りオフサイドで取り消されたゴールシーンも、エディの落としを受ける直前にマルティネッリに大外のスペースを提供できており、元々の武器であるパス精度を生かした見事なラインブレイクパスで幻の先制点を演出した。
リズムを作れるという点ではスミスロウの存在も忘れてはいけない。パスアンドゴーの申し子とでも言うべきリンクプレーの天才は、停滞した攻撃を加速させる重要な1ピースになるに違いない。
このように現在のアーセナルには様々な特徴を持った選手たちが多く在籍している。例えばアルテタが絶対的な戦術を持っていて、それを遂行する上で必要な特定の能力を持つ選手だけを集めているのであれば至極シンプルな話であるのだが、決してそうではない。むしろ、現在覇権を握っているペップシティのようなある種機械的な動き方ではなく、それらに加え選手たちに裁量を渡したアーセナルらしい自由さを併せ持つ試合を行いたいと考えているのは就任以来の獲得の動きを見ていれば容易に想像できる。だからこそ、異なる武器を持った選手たちをどう組み合わせシナジーを生み出していくのか、アルテタには次節以降も十分に考えていく必要があると思う。
また、それは何も目の前の試合に勝つという短期的な目標を達成するだけの為ではなく、いよいよ始まるCLとの二足の草鞋を履いていくという長期的な目標を達成する為にも必要不可欠な取り組みである。効率的な選手のやりくりをベンチ勢も含めて行う事はタイトルを狙うチームとして必ずクリアしなければならない課題だろう。
ゲーム総評
いつもは苦戦するアウェイエヴァートン戦で、終始ポゼッションを行い即時奪回からショートカウンターを連発、惜しむらくは「アーセナルに足りないのはゴールだけ」というSPOTVの解説粕谷さん評が的確な試合運びを行っていた。
マルティネッリが早い時間帯でもも裏を抑え負傷交代していたのが唯一の気がかりだが、その他はおおむね満足のいくパフォーマンス。グディソンパークに集ったホームサポーター達がアーセナルのブーイングの時しか元気にならなかったところから、エヴァートンに有効な攻撃をさせないアーセナルの成長ぶりを感じられて良かった。
次節は木曜日、いよいよ始まるCLグループステージである。初戦に戦うのはELで辛酸を嘗めさせられたPSV。新加入選手と戦術のブラッシュアップで更なる進化を遂げつつある現在のアーセナルを見せつけ、快勝でグループステージ突破争いの火蓋を切って欲しい。