イヤホンを捨てよ、街へ出よう
愛用していたS◯NY製のカナル型イヤホンXBA-30が壊れた。
タバコを吸う人間に口寂しいという言葉があるように、
年中耳を塞いで地面ばかり見て歩いている身からするとイヤホンが無いのは耳寂しく、
外に出ると必然的に人の会話が耳に入ってくる。
「へえ〜ほんまに和美じゃないんや!」
飯屋で注文した料理を待っている最中、
誰かがかなり和美の嫌疑をかけられている。
「その言動とかかなり和美やけどねえ」
「ほんまに和美さんっぽいですよ!」
「でも逆に和美じゃないから良かったんかもしれんな!」
和美、一体何者なんだよ。
そして現れたもう一人のほぼ和美は誰なんだよ。
なんじゃこのめくるめく和美クライシス。
どうも元カノ「和美」に激似のナオンとまたネンゴロになった、的な話らしい。
じゃあ最後の「逆に和美じゃないから良かった」ってどういう助言だと思わないでもないが
関西における日常会話は基本的に運転手不在の暴走特急みたいなもんなので
深く気にせずその場の刹那的なノリを楽しむのがオツなんだと思うことにした。
この場に居ない架空の和美とその和美に激似のナオン和美’(カズミダッシュ)を想像しつつ
激アツの小籠包を食い上顎を全部ズルズルにする日曜の午後。
和美で上手くいかなかったなら激似の和美'も上手くいかねえんじゃないのか。
和美の話がひと段落したタイミングで飯を食い終わる。
皿を片付けようとした店員のチャンネーが「すみま・・・あ、不好意思」と
日本語から中国語に切り替えて話しかけてくれて返答に窮する。陽気なシャツを着ていたからだろうか。
ぐっ!👍
頷きながらのサムズアップでことなきを得た。
万国共通、いいねマークを知らしめてくれたフェイスブックに感謝を覚えたね。
上顎はズルズルなものの、日常で滅多にやらんサムズアップが出来たため、心は晴れやかである。
こういう時和美ならどうするんだろうなどと思いながら。
さて、あまりに外出しないため翌日から風邪を引いた。
寒暖差の激しい季節の変わり目を前に、己の免疫はあまりに脆い。上顎鼻水ズールズル。
ま仕事もどうせ暇だしこの際二日くらい休んでやるか!と休んだものの、本当に全然治らん。
「咳をすると蟹味噌の味がする」など言いつつ家で爆笑していたら
会社の偉いオッサンからコロナかどうか調べてもらってこいと言われたので病院に行く。ビョイーン。はしゃいでしまい申し訳ない。
平日の休みって病欠だとしてもウキウキするだろ。
前回同じ病院にて、コロナかどうかを調べてもらった時
オッサンのスタッフに巨人の耳くそ用みたいな綿棒で縦横無尽に鼻の奥を蹂躙されたため
めちゃめちゃ身構え、顔も梅干しかキン◯マと見紛うくらい皺くちゃにして痛みに備えたが
最新の検査は鼻の穴の入り口をチョロとする程度で全然痛くなかったのでやたら身構えた異常中年となってしまった。
人の両鼻の粘膜を全て抉りとらんばかりの勢いだったあのオッサンはなんだったんだよ。
未だに思う、綿棒突っ込むのは片方で良かっただろ。
検査結果が出るまでベンチに座っているとまた会話が聞こえる。
「◯◯さん!ちょうどよかった〜!左側のエレベーターな、ずっと「開」が押されてて全部の階で止まるねん。」
「ええ!?それはちょっと聞いてみるわ」
エレベーターが壊れているらしい。
「あ、もしもし〜?今病棟の師長さんから言われてんけどなエレベーター、左側のん、そうそう。
開がずっと押されてて各駅停車してまうねんて」
エレベーターから鈍行列車になったらしい。
「あ、ほんまに?わかったありがとう〜ほな!」
「・・・どうも直ってるみたいやわ、いっぺん地下行ったらなんか変わるんとちゃう?」
「そうなんかなあ、まあいっぺん地下行くもんなあ。」
この病院の地下どうなってんだよ。
「あ、久しぶり〜!」
「最近どう?慣れてきた?慣れないスリッパでまたド派手に転んでない?」
環境じゃなくてスリッパの話かよ。
「いやもう看護師さんとかはわからんけどこっちめっちゃ暇でさ〜」
「えそうなん!?」
「もともと一人でやってはった仕事を二人で分けてるからさあ〜」
エレベーターのドアが閉まると会話も聞こえなくなった。
「46番さーん診察室どうぞ〜」
「コロナではないですねえ」
コロナちゃうんかい。なんやこの時間、もうええわ。
と思いながら会計を済ませて病院を出る。
安心するような、ただの風邪で二日休んだ罪悪感があるような。
とどのつまり、取り留めのない日常である。
ま人生そんなもんですわ。