【ショートショート】『愛にカニばさみ』

仁香ニカがここを去ってもう二年が過ぎた。

目の前に広がる水面は、オホーツク海に面した大きな湖だ。

湖に落ちる夕日を仁香と一緒に見たあの日々が、人生最良の日々であったと今は思っている自分がつまらなく思えた。

本当につまらない人間に成下がってしまったのか。

「僕はもうここにはいたくない」

ある日突然、僕っ子になった仁香は吐き捨てるように言ったのだ。

自分は、何のために此処にいてこの夕日を今日もまた眺めているのか。

仁香は突然、花の都に出て行ってしまった。

今や彼女が気まぐれにSNSで吐き出す思いを見るだけ。

コメントしても無視。

それが、今の正確な距離感に違いない。

SNSにあげる心情吐露もとぎれとぎれで要領を得ない。

なんでも、推し事で情緒が不安定になりすぎているのだそうな。

ゴスロリにヘッドホンの出で立ちで愛聴盤がカンニバル・コープスカニコーと知って泡を吹いた。

返信など期待せずに書き込むことにしよう。

『二周年おめでとう！　そしてメリークリスマス』

（410文字）

＊　＊　＊

以上、こちらからお題をいただきました。

遅刻すみません。